九州ラーメンを語るときに、必ず出る小話があります。
あるラーメン店でのこと。店のおばちゃんが持ってきたラーメンを見ると、丼を持つおばちゃんの親指がスープにどっぷりとつかっています。
「ああ!おばちゃん!指が、指がぁ!」と言うとおばちゃんは平気な顔で
「だいじょうぶ、熱くなか!慣れとるけん。」
実はこのエピソードの発祥とされるのがこの店。
とんこつラーメン発祥の地・久留米においてもなおかなり初期から営業する店だけあって、その素朴さは九州の中でも群を抜いています。
九州を縦に貫く国道3号線の筑後川の手前、ほとんどバラックと呼んでよさそうな建物の前にはけっこうな行列が。
行ったのが正月3日の昼過ぎということで、ちょうど帰省中の人々やヒマを持て余した人々が押しかけ、店外に20人ほど、店内にさらに10人ほどの行列ができていました。
店の入り口すぐに券売機がふたつあり、そこで食券を買うと次におでん売り場が。天やごぼう丸天、牛スジなど、九州のおでんそのものがセルフサービスでの提供。(もちろん食券は購入)
そして行列の先頭となり、席に案内されるのですが、おばちゃんたちの指示はけっこう曖昧。さすが九州といった感じの南国的いい加減さなのです。ですから客は、たぶんおばちゃんたちが案内したいのはこのへんなんじゃないか?などと想定しながら席に着くことになります。
店内は質素というよりも、いまどき珍しい「粗末」という言葉がぴったりな感じの土間の空間。しかし決して不潔ではなく、意外に居心地は悪くありません。
混雑時には注文とは関係なく常に作り続けているようで、食券を渡すとほんの1、2分で出てきます。このとき、おばちゃんの指がスープに入っているかどうかを見逃したのがとても残念でした。
味は、先に書いたように実に素朴なもの。白濁し、油がほぼ全面に浮かんだスープはこってりとしていて少し塩味強めの正統派とんこつスープ。
麺は博多よりも少し太めで柔らかいストレート。弾力よりもぷつっと切れる歯ごたえが楽しいタイプで小麦そのものの味も博多よりも豊かに感じます。
チャーシューは量が少なく、多少ぱさつくものの1杯380円なのですからこれで文句を言うのはお門違いというものでしょう。
スープを飲んでいくと丼の内側から「祈る 交通安全」の文字が現れるのは、国道沿いの店ならではです。
久留米発祥の豚骨ラーメンは、東は大分、西は佐賀、南は鹿児島、そして遠く本州の広島まで伝播してますが、これを伝えたのがトラックの運転手だったと言われています。トラック運転手たちの評判に乗り、口伝で広まっていくうちにそれぞれの地域で進化を遂げていったのでしょう。
そう考えると、食文化というものの不思議さと奥深さを感じてなりません。
なお、店内で売られている「お土産ラーメン」は生麺が3玉入っていながらなんと350円。スープは粉末ですが出来が良く、コストパフォーマンスは非常に高くなっています。これは本当にお土産としておすすめ。電話でも取り寄せられるようです。
近年、東京などではラーメンが完全に流行りすたりのモノとなり、コロコロ人気店が変わっていくなかで、豚骨ラーメン発祥の地・久留米で数十年にわたって同じ場所で同じ味を提供し続けるこの店。
建物はボロでいいから、いまと変わらぬ味と価格でみんなをいつまでも喜ばせてほしいものです。
インスタグラムの動画はこちら。
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「丸星ラーメン」(福岡久留米・ラーメン)
https://tabelog.com/fukuoka/A4008/A400801/40000225/