神泉の片隅にひっそりとたたずむ小さなラーメン屋。
その地味な外観とは裏腹に、きらりと光る珠玉の一杯を味わうことができる素晴らしい店でした。
最初に頼んでみたのが「わんたんめん」。
自家製のワンタンが丼の7割を覆い尽くした状態で出てきます。まず最初にスープに口をつけると、その澄んだ味わいに驚きます。鶏をベースに宗田鰹の鰹節などを合わせたとのことですが、魚介特有の雑味がまったく感じられず、鶏がらのうま味にコクと奥深さが与えられている感じ。
店内には化学調味料不使用との謳い文句が張られていますが、ここまでおいしければわざわざ謳う必要などないのではないでしょうか。化学調味料不使用を謳うことは一種、「味が足りない」ことの言い訳にも聞こえるわけですから。
さて、ワンタンをかきわけると久留米ラーメンほどの太さの麺が登場。とてももちもちした食感で、小麦の甘味が感じられます。
ワンタンはぷるんっとした皮の感触がうれしく、具もしっかり。さすが手作りと感心させられます。チャーシューはスモーキーで味が濃いめ。メンマは独特の香りが少し残されたくらいの塩梅でちゃんと食べた実感が残る感じです。そのほかトッピングに水菜があるのがとてもユニーク。
ひとつひとつが非常に高い水準でまとめられているのですが、ただひとつ不思議なのが、麺とスープの親和性がちょっと足りない気がすること。なぜなのかはわかりませんが、別々に食べている気がするのです。お互い個性が強すぎるのか、味の方向性が違うのか。キツネにつままれたような気がしました。
とはいえ、おいしさでは渋谷で1、2を争うことは間違いありません。辛い麺で有名なこの店ですが、まずはこのスタンダードなスープのうまさを堪能してください。
そして後日、食べてみたのが「汁なし担々麺」。
あるようでなかなか置いてる店がないこのメニュー。辛さばかりがややもすると強調されますが、実際はベースとなるスープや肉味噌の味が鍵となり、一体感を持たせるにはなかなか難しい一品です。
上の写真では、麺は少なめに見えますが、実際は麺はかなり多め。丼がけっこう大きいのです。
これは「飛びはね」対策。肉味噌がねっとりしており、麺も太めで腰が強いため、麺を普通に引き上げて食べようとするとスープや肉味噌の粒があっちこっちに飛んでしまい、服を汚しかねません。ですからこのメニューを食べるときには麺の途中でかぶりつくこと。つまり、麺を全部引き上げようとするのではなく、ある程度の長さまで引き上げたらそのまま噛み切ってください。それがこの麺を食べる上での最大のポイントと言えるでしょう。
味は、麻(マー・花椒)と辣(ラー・唐辛子)をそれぞれ3段階からチョイス可能。麻は唇がしびれる辛さです。私は辛い物好きなので麻を「強」にして、その代わり辣を「普通」に。「強」でもよかったかもしれません。
味は肉味噌が濃い味で、ベースのスープがしっかりしているため、単に辛いだけではありません。コクのあるうま味と辛さ、そして唇のしびれが混然となってついつい休みなく食べてしまいます。かなり「重い」ですが、うまさもまた相当なもの。ちょっと病みつきになりそうです。
そのほか、サイドメニューも意外と充実しており、23時という閉店時間と相まって、居酒屋代わりにも
使えそう。
なかでもこれも自家製という餃子は、餡がふんわりしていて皮もむっちり。専門店でもなかなかない柔らかな食感は特筆もの。5個で350円という価格は微妙ですが、もし小腹が…というときには、ちょっと塩辛い「わさび焼豚飯」など小丼をチョイスするよりはこの餃子を選ぶほうが賢明でしょう。
この店の存在はずいぶん前、そう「東急ステイ」という滞在型ホテルが隣にできる前から知っていましたが、その外観の地味さと、当時ことさらに「無化調」を強調していた印象からあえて入ることがありませんでした。
しかしその実力は想像を超え、渋谷でトップと言ってもいいほどです。
またひとつ、”小さな宝石”を発見した気分です。
「うさぎ」(渋谷神泉・ラーメン)
https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130301/13041115/