ラー油の海から、豆腐と肉とをすくって食べる。
この店の麻婆豆腐は、そうとしか表現できないほどラー油がいっぱいです。
しかし、ラー油の辛さはそれほどでもありません。とくに「知音食堂」の血の池地獄と比べればほんとにかわいいほど。「楊」の麻婆豆腐に名声をもたらしているのは花椒(山椒)のしびれるような辛さ。
しばらくすると唇が麻痺し、じんじんと脈拍が感じられる辛さはまさに「麻」で表現される味。慣れてなければ痛いと感じるほどの辛さがこの店の真骨頂なのです。
十条で創業して2店目として開いたのがこの店で、いまはさらにもう一店火鍋専門店が池袋にあるのですが、実際にはここが本店となっているようす。女性オーナーの楊鋭意さんもこの店によくいるようです。
しかしこの楊さん、すでに創業10年というのにとても若く見えるのが不思議。彼女の人柄に触れるために来る客がいるというのがわかるような、明るく丁寧な対応をしてくれる女性です。
メニューは辛いものばかりではありません。
私が食べたなかでおいしかったののは「羊肉水餃子」。
その名のとおり羊の肉を具にした餃子で、中国ではごく普通のものですが、よく練り込まれた餡の味もしっかりしていて肉汁もたっぷり閉じ込められています。皮はちょっと薄めで、これだけで主食といった感じではありませんが、サイドメニューやビールのつまみとしてはとてもいい一品です。
もちろん羊肉が苦手な人は通常の水餃子のほか、たくさんの具のレパートリーの中から水餃子、焼餃子を
選ぶこともできます。
また、辛いもの好きなら「汁なし担担麺」もどうぞ。
四川家庭料理というだけあって、青菜とピーナッツを砕いたものが乗るとてもシンプルな担担麺ですが、下に敷かれたたれをからめて食べると鮮烈な辛さとうま味が脳を刺激してくれます。
鹹水の入っていない白い麺の、ちょっとぬめっとした食感も印象的で、人によってはかなりはまってしまいそうな感じです。
副都心線開通によって “滅ぶんじゃないか” とまで心配された池袋。
その東京芸術劇場近くの裏路地にひっそりとたたずむ小さな店ですが、中国料理店らしからぬあたたかな雰囲気と現地そのままの鮮烈な辛さを体験しに、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いたあとに「孤独のグルメ Season1」第3話に取り上げられました。
「楊2号店」(池袋・中国四川料理)
https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130501/13009261/