最初は、町工場の片手間に始めた店でした。
しかも出していたのは普通の広島ラーメン。ランチタイムだけの短時間営業。直線のカウンターに6人くらいで満席だったでしょうか。
それが中国人女性に本場・四川の担担麺を習い、広島で初めての汁なし担々麺を提供しだしたのが13年ほど前のこと。その、花椒を使った痺れる辛さはたちまち人々を虜にし、行列のできる店となりました。
私などはこのとき、これぞ盛岡のジャージャー麺や宇都宮の餃子のように、新たな広島のB級グルメとして全国に発信していけるものだと確信を持ちました。
ところが当初、意外にも広島での広がりに欠けます。
当時、より人気を集めていたのは広島風つけ麺。ゆでた麺の上にチャーシューとキャベツが盛られ、辛いタレにつけて食べるというものです。
もともと辛いものが苦手な人が多い広島では、この辛さは新鮮に映ったのかもしれません。しかし私たちに言わせればただ辛いだけで独特のうま味に乏しく、しかも具がキャベツとチャーシューしか乗ってないのに一人前1,000円近くと、コストパフォーマンスがかなり悪いと感じたものです。
なぜ広島人は汁なし担担麺を理解しないのか—。
ひそかに心痛めていました。
ところがこの数年で明らかに流れが変わりました。市内には「キング軒」「花山椒」といった同業の店が数多くできました。さらに聞いた話では、地元放送局で、これら汁なし担々麺の店の主人たちが大挙して本場・四川の店を訪れる番組まで放送されたとか。
そして「きさく」の主人はこの番組のなかで、旅立つ主人たちに、どの店を訪れるべきか”指南役”をしたとのこと。つまり、開祖として一段上の立場でした。
この話を聞いたとき、私は13年という歳月に思いをはせ、感慨にふけりました。ようやくここまで来たかと。
そして訪れた久しぶりの「きさく」。
かつて町工場の片隅にあった店から南に100mほど下ったビルの1階。真っ赤な外装は2003年秋の移転当時から変わっていません。時間の都合で11時開店の15分前に着いたのですがすでに2人の先客が。日曜日ということもあり開店時には10人が並んでいました。
店内は相変わらず薄暗く、だだっ広い厨房をL字型に囲む15人ほどのカウンターも変わっていません。
そして味も変わっていませんでした。
極辛の食券を出してなお「辛めで」と注文したため、主人が大サービスをしてくれたのでしょう。
花椒の痺れる辛さでどんどん唇の周囲の間隔が麻痺していくのがわかります。しかし辛いだけでなく、うま味がしっかりとあるために箸が止まりません。
大満足です。50円でセルフのてんこ盛りし放題の白いご飯も。
東京でもまだそれほど一般的になっていない汁なし担々麺のこの”痺れるうまさ”は、ぜひ広島に来て堪能してほしいと心から願います。
もし、なかなか広島に行く機会がなかったら通販も。
ここの通販は送料を入れても、店で食べる価格とさほど変わらないのでコストパフォーマンス的にもオススメ。辛さも選べますので、興味があればまずここからチャレンジしてみてもいいかもしれません。
広島に自然発生し、長い歳月を経てしっかりと地域に根付いた「広島汁なし担担麺」。
そこらの、行政やら青年会議所やらが町おこしで始めたような、ヤワなB級グルメじゃありません。
私としては、この「広島汁なし担々麺」がB-1グランプリに参加する日を夢見て、これからもひっそりと応援していこうと思います。
「きさく」(広島・汁なし担々麺)
https://tabelog.com/hiroshima/A3401/A340101/34000159/