東京のラーメンの原点とも言うべき素朴さでしょうか。470円。
スープは鶏ガラベースの醤油味。かつてウイスキーのCMで「なにも足さない なにも引かない」というフレーズがありましたが、まさにそんな感じ。非常にシンプルで拍子抜けするほどですが、しかし滋味深い味でおいしいのです。
この店があるのは東西線の落合。高田馬場から西へひと駅で、早稲田通りと山手通りがクロスするほか、とくに目立つもののない地味な街です。
ホームの両端にふたつある改札の、東側のを出て地上に上がり、西にちょっと戻ったあたりにある古い木造二階建ての建物。「福芳」は「ふくよし」ではなく、「ふくほう」と呼ぶそうです。ずいぶん昔から前を通るたびに見ていましたが、土曜日のこの日、数人の客が入っているのを見て好奇心から入ってしまいました。
壁には一面にメニューが。すごい数です。いわゆるニッポンの中華だけでなくカレーまであります。黒い紙に金色のマジックで書いたようで、貼ってすぐはかなり豪華だったんじゃないでしょうか。
店内は5人ほどのカウンターに4人掛けテーブルが3つがひしめき合う感じ。
私が入ったときは先客2名だったので、「どこでもどうぞ」と言われてテーブル席に座ったのですが、次から次へとやってきて満席に。ひとりでテーブル席を占領する自分の肩身が狭い思いをしました。ほかの客は60台以上か、あるいは肉体労働系の人々という感じですべて男です。
頼んだのはラーメン(470円)と五目チャーハン(600円)。腹具合としては一品でよかったのですが、最近滅多に来なくなった落合での初めての店ですから、つい欲張ってしまいました。
ラーメンというより中華そば、あるいは支邦そばと呼んだ方がぴったりくる昔ながらの東京ラーメン。琥珀色のスープがなかなか美しく、すすってみるとけっこうおいしい。
麺はきれいに折りたたまれて投入されていました。細めの縮れ麺。ゆで加減も昔ながらでやわやわ。鹹水の臭みはあまりありません。
メンマの薬品臭いこと。こんな匂いのメンマ、あまりに久しぶりで逆に嬉しくなってしまいます。モヤシも生のままたっぷりで食べ応えあります。
チャーシューはちっちゃいのがほんの1枚。まあ1杯470円のラーメンですからしかたありません。もっと食べたければチャーシューメン(700円)を頼めばいいのですから。
化石のようなシンプルさを保ちながら、しっかりとした調和があり、古き良き時代を思い起こさせるような素敵なラーメンでした。
そして五目チャーハンは600円も取るだけあって量が多い。色の少なさから「どこが五目やねん」とツッコミたくなりますが、なかなかに美しいのは事実。
具はハムとチャーシューの細切れ、それに卵くらいしか見当たらず、「やっぱりどこが五目やねん」とツッコミたくなりますが、そこは抑えて食べ始めます。
これがけっこううまい。塩味は薄めですがコメひと粒ひと粒がふっくらパラパラとしておいしいのです。
ただ、量が多かった。たぶんこれだけで2合以上、お茶碗3杯分はあります。ラーメンを先に食べ、そのスープを友にして食べ進んでいきますが、なかなか減りません。途中何度も、持ち帰り用に詰めてもらおうかと思いましたが、どうにか食べ終えることができました。
正直、建物はボロいですが、よく見ると手入れは行き届いており、不潔ではありません。落合に来る機会があったらまた来ようと心に誓いました。
壁一面のメニューのなかで、他の客に人気があったのは「タンメン」(570円)。運ばれてくるのを見ると野菜が大盛り。井手ちゃんぽんのよう。またほかの客が注文していた「肉チャーハン」(700円)は、提供される前に店を出てしまったので見てないのですが、非常に興味をそそられます。次、何を食べるか非常に迷いそうです。
みなさんもこの珠玉のレトロな味わいをぜひ。
「福芳」(落合・ラーメン)
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