いきなりの「まんじゅうの天ぷら」にノックアウトです。
猪苗代湖のほとり、ただあてもなくたどり着いた小さな集落にある数軒の店のなかで、いちばん多く車が停まっていたことで選んだ蕎麦屋でしたが、その天ぷらのユニークさにはただただ驚くばかりでした。
まずは「まんじゅうの天ぷら」。
衣の下に薄く茶色い地肌がのぞく姿は一瞬、椎茸のように見えましたが、割ってみるとそこには温泉饅頭のような素朴な姿の饅頭が。
生地は餡も甘さ控えめ。食事としていけるのが意外でした。
もうひとつの驚いたのが「いかの天ぷら」。
そんなの全然珍しくないじゃん、と思ったらさにあらず、なんと入っているのはスルメなのです。まあ実際にはスルメと言っても一夜干しですが、それでも干物を天ぷらにするなんて初めてなので新鮮でした。
そしてニシン。これもまた軽く干してあるものですが、身が小さいものの柔らかくまるでイワシの天ぷらのようでした。
しかし、なぜ饅頭やスルメやニシンの干物がわざわざ天ぷらにされなければならないのでしょうか。
その理由は会津地方の冬の厳しさです。雪深い内陸のこの地域にとって、ニシンやスルメなど干物は欠かせないタンパク源。また、饅頭も日持ちする貴重な保存食だったはずです。
しかし昔は保存性を高めようとすると水分を抜くしかありません。昔の干物は今とは比べ物にならないくらい乾燥し、ガチガチでした。そしてそのガチガチをどうやって柔らかくし、少しでもおいしく食べるかの答えが「天ぷら」だったのでしょう。その料理法がいまも残り、こうして私たちを驚かせ楽しませてくれているのです。
一方で、本業の蕎麦。
地元・猪苗代湖周辺の蕎麦を100%使いながら、「ざるそば」が一人前500円という安さ。しかし色白で香り高く、腰も強くておいしい蕎麦は十分満足のいくものとなっています。ただちょっと盛りが少ないのが玉に傷。一人前だと足りず二人前だと余りそうなのが悩ましいところです。
そばつゆも、しょっぱさよりもちゃんとだしが効いた上品なもの。東北でありながらむしろ東京より薄めに感じるほどです。
ユニークな天ぷらについ目が行ってしまいますが、どうしてどうして蕎麦だけでも十分に食べる価値のある、しっかりとした店でした。
もし猪苗代湖に行く機会があったらぜひ寄ってみてください。
なお、帰り際にこの店で買った「にんにく激辛味噌」は絶妙の辛さとうまさで、たった500円ながら大当たりの土産物でした。これもぜひどうぞ。
「元祖清水屋」(福島会津若松・蕎麦)
https://tabelog.com/fukushima/A0705/A070502/7000103/