丸天こそが博多のうどんの王者です。
九州など西日本各地では、揚げた魚肉練り製品を「天ぷら」と呼びますが、なかでも円形に平たく延ばした丸天は安くておいしくて栄養もあり、まさにうどんに乗せるために生まれてきたようなもの。
ところがこう言うと必ず「うんにゃ、ごぼう天こそが博多うどんの王者たい」とか言うのが出てきます。しかし、そういう人に限って本来のごぼう天を知りません。
博多のごぼう天はほとんどが衣。
ごぼうは千切りが点在する程度で、しばらくするとつゆを吸って崩壊し、たぬきうどんと何も変わらなくなります。
博多ではえび天も似たようなもの。
衣の中にしらす並みの小ささのエビが点在しているだけなのです。
ともに「ごぼうの味と香りがする衣」「エビの味と香りが少しする衣」でしかありません。
最近、厚めにスライスした、あるいはスティック状にカットしたごぼうを揚げたものがごぼう天だと思われていますが、そんな豪華なものは普通の博多のうどん屋にはなかったのです。
さて、「孤独のグルメ 真夏の博多出張スペシャル」で出てきたこの店。
ごぼう天、えび天、丸天、すべて80円。
同じ80円のなかで、井之頭五郎が選んだのが丸天だったのは必然と言えるでしょう。
だって、博多の代表として「衣」を食べてほしいですか?
この店があるのは、呉服町。
福岡市中心部は歴史的に、行政を司る「福岡」と商業の中心地「博多」に分かれますが、呉服町は博多のほう。呉服町はかつて百貨店もあり栄えていましたが、昭和38年に博多駅が移転して遠ざかったため衰退。
いまはオフィスビルとマンションの間に昔ながらの家並みが垣間見える静かな街となっています。
60年前から続くというこの店も、栄えた時代の空気を残す生き証人。
外観や店内はもとより、うどん自体が「昔ながら」という言葉そのままなのです。
なにしろ極太で、クレヨンのよう。伊勢うどん並み。1本すするのすら大変です。
しかもよくゆでられていて表面が溶けかかっています。もちろんコシなどというものとは無縁。ゆるゆるのふよふよのぶちぶち。これこそが博多のうどんthe Originalなのです。
だしは昆布といりこでしょうか。
醤油や塩がきつくなく、淡い味でごくごく飲めます。
ねぎは卓上のすり鉢に山盛りにされ、好きなだけぶっかけてよし。
この手軽さこそが博多うどん。
おやつか、昼に食べるにしても単独で食べるものではなく、いなり寿司などとセットに腹を満たすもの。
博多ラーメンの高級化・高価格化につられるかのように、博多のうどんも一部では讃岐のようにコシを追い求めたりするようになってきましたが、やっぱり素うどん320円でトッピング各80円というお手軽な博多うどんは消えてほしくないものです。
本当の福岡の味を知りたければ、欠かせない店だと思います。
「みやけうどん」(福岡・うどん)
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400106/40003615/