「ひと粒で二度おいしい」というのが、はるか昔のCMにありましたが、ここの担々麺はまさに「一杯で二度辛い」といったところ。半日経った後のトイレが結構強烈に辛い、いやヒリヒリとキツいのです。
この店があるのは大久保。韓流で有名になった新大久保ではなく総武線のほうの地味な駅です、線路を支えそそり立つクリーム色のコンクリートの壁のすぐ横に、三角の断面をもつ小さな店が。
私が行ったときはあいにくの雨で、けっこう寒くしとしとと降り続いています。私の前には2人。まあ5分も待てば入れるかな、と思ったのですがこれがいつまでたっても中から客が出てきません。ラーメン屋なら回転も速く、次から次へと客が入れ替わるのが通常の光景。おかしいと思って店内を覗きますが、カウンターで背を曲げて食べている様子の背中が並んでいますから、とくに変ではなさそうです。すでに食券は買ってしまっているため、諦めるわけにもいかず、冷たい雨のなか上着もなしに待ち続けました。
列の先頭の客が呼ばれたのは、15分以上たってから。私はその5分後でした。そして店内に入って理解できました。店が狭く、レの字型のカウンターに8席のみ。それをたったひとりでオペレーションしていたのです。つまりいっぺんに作っていっぺんに提供するために、客も一斉に入れ替わってほぼ同じタイミングで出ていく。その循環のなかの行列の3人目ですから、待たされるはずです。
私が頼んだのは「地獄の担々麺 阿修羅」(900円)。券売機をよく見ずに買ったのですが、担々麺は何もない1辛が「護摩龍」という名で、辛さが10倍になると「飢餓」、15倍で「阿修羅」、30倍で「血の池」、さらに「無限」という最大の辛さを誇るものが用意されています。これはつけ麺も同じ。
それとは別に「黒の修羅場」というシリーズもあり、これは10倍が「修羅1号」15倍が「修羅2号」30倍が「修羅3号」。なぜか無限は用意されていません。
店内は地獄をイメージしているだけあって、店内は真っ黒。レンゲ入れが頭蓋骨だったりとなかなかの悪趣味です。
アルバイト募集の張り紙も「地獄の労働者募集」っていうのは笑えます。「地獄の労働内容」が、「地獄の調理補助(担々麺)」「地獄の招待客への料理提供」「地獄での雑用」。さらに「地獄に興味のある方 髭・タトゥー・ピアス・ボウズ 特に歓迎」というのが微笑ましくていいです。ただ、店内の神棚にも頭蓋骨を並べているのはさすがに不謹慎ではないかと…。
さて、肝心の料理ですが、着席してさらに10分くらい待って提供。
なかなか色鮮やかできれいなルックスです。中央右に、こんもりと赤い唐辛子の山が。
こわごわ、箸でつつくようにして少量を取り、なめてみました。全然辛くありません。韓国あたりのそういう種類の唐辛子なのでしょう。まあ客をビビらせるにはいいかもしれませんね。
普通なら麺類はスープの味見から始めるのですが、ここのは危険なので直接、麺から。
麺はやや太めの平麺。けっこうエッジが立った感じの腰のある麺です。スープの絡みはよく、辛さをそのまま引っ張ってくる感じ。正直、小麦の味がするかどうかはわかりませんでしたが、悪い麺ではありません。
そぼろ肉はけっこうたくさん。味噌で絡めてある感じはせず、シンプルな味付けのよう。
そしていよいよスープ。ゴマのペースト(芝麻醤)がけっこう大量に使われていてその甘みがけっこうある中に唐辛子の刺激がかなり強烈に効いてきます。うま味もちゃんとあり、そのなかで辛さと甘さがせめぎあう感じ。なかなかの出来栄えです。デフォルトでは花椒(山椒)のしびれる辛さはさほど感じられず、唐辛子の辛さに覆われた感じ。そぼろ肉をレンゲですくって食べていると、急に汗が吹き出し、鼻水が出てきます。それでもなかなかうまいので手は止まりません。麺の量もけっこうありました。
麺をほぼ食べ終わった時点で、丼をカウンターの台に上げて「チーズリゾットで。」とオーダー。すると、血の池地獄のようなスープにご飯が投入され、ピザ用のチーズを乗せてバーナーであぶります。これで「チーズリゾット」(200円)。
正直、バーナーであぶったことで生臭さがあり、これなら電子レンジで20秒温めてくれたほうがいい気がします。
しかしこれは失敗しました。おいしいけど。
ちょっと足りないかなと思って最初から食券を買っておいたチーズリゾットなのですが、投入されたご飯とチーズをレンゲですくって食べることで、否応なしに激辛のスープを一緒に食べることになってしまいます。しかもそぼろがけっこうたくさんあるためについつい底の方まですくって食べてしまいます。
結局、ほぼすべてのスープを飲み干す形になり、その9時間後。「二度辛い」を体験してしまうことになってしまったのでした。
とはいえ、芝麻醤を贅沢に使い、強烈な刺激とせめぎ合うような味にしてあるのは立派。日本式(陳建民式)の担々麺としての完成度は高く、刺激的な一品となっていました。
辛さが大好きなあなた、ぜひ一度訪れて「二度辛い」を味わってみてください。
「護摩龍」(大久保・ラーメン)
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