【豊洲へ移転しています】
台風さんありがとう、です。
8月9日は台風13号が首都圏に接近、早朝から午前中いっぱいは暴風雨が予想されていました。ならば閉場間近となってめちゃめちゃに混んでいる築地も、この日だけはすいているのではないか。とくにいつも4~5時間待ちはザラという「寿司大」の行列もないのではないか、と期待しました。
「寿司大」は築地を知る人間ならば一度は行ってみたい店。おいしいことはもちろん、店長をはじめスタッフのおもてなしも素晴らしく、よくある人気店のようにさっさと食べさせようとか、食べ終わったらさっさと帰そうとか、そういうことを一切しないということで知られ、憧れの店なのです。
しかしみんな考えることは同じ。台風ですくだろうと思って逆にみんながやってきて、全然すいてないということも過去にはありました。実際、築地の達人・なべひろさんが前回の台風の時に午前3時に並んで5時間待ったという話も聞いています。実際にその日に混むかどうかは、一種の博打なのです。
そして迎えた9日の朝。前日午後までの予想とは変わってたいした風もなく、雨も降っていません。午前6時半に到着したとき、築地場内はガラガラ。ただ、「寿司大」の前だけ行列ができていました。しかし普段と比べると非常に短い。ここで並べばたぶん1時間ちょっとで入れそうです。
悩みました。1時間待って入るかどうか。もしきょうのこのチャンスを逃したら、10月6日の築地閉場までに「寿司大」に楽に入る機会はもうないかもしれない。気温30℃以上の炎天下で5時間待ちなんてザラの店です。
場内から場外へ3周回って考えました。するとさらに行列が短くなったように見える瞬間が。そこで意を決して並び始めます。とそのとき、友人が「いまから築地に行きます」とメッセージが。合流して一緒に並んだことで非常に楽になります。ちょうど人数を確認しに来た店員に聞くと、「きょうは1時間半くらいじゃないでしょうか」とのこと。
このとき午前8時半。6時半より前に築地に着いていたはずなのに、ずいぶんと悩んで迷ったものです。
前後は外国人観光客。前は英語を話す東洋人のグループですので、中国系のオーストラリア移民でしょうか。後ろは中国語ですので、本土からでしょう。さらに見ると8割は外国人。外国人観光客は日程に限りがありますから、何が何でも並ぶ傾向があり、「またいつか行けるさ」という日本人とは気合いが違います。雨が降っても「寿司大」の行列があまり減らなくなったのは、外国人の割合が増えたから、という要因が大きいのです。
そして予告通りに、待つことおよそ1時間半。やっと我々の順番になり、店に入ることができました。
店内は1本のカウンターのみで、まさにうなぎの寝床。ほかの客の後ろを出入りするのにも難儀します。
でも噂通り、店長さんをはじめとするスタッフはみな親切で、電車の網棚のような棚への荷物の上げ下ろしまで手伝ってくれます。とても気さくに話しかけてくれ、雰囲気の軽さというか明るさにほっとします。
まず最初に出てきたのが中トロ。この店はお任せが基本。最初にトロ、という普通の寿司屋にない順番で喜ばせてくれます。舌でとろけるような、いいトロです。
次がヒラメ。握ったあとにネタの上から塩をまぶして提供されます。握り方も柔らかく、これもなかなかおいしい。
金目鯛。甘くて歯ごたえもありながらしっとり。
そして4番目になんとウニ。長く待っていてややくたびれた人々には、たしかに先においしいものを食べさせたほうが効果的かもしれません。この店ならではのメニュー構成です。
そしてここで玉子焼き。ふわふわな上に、あつあつで出てきます。ただただその心遣いが嬉しい。
アジ。この皮を剥いだあとが美しい模様のようで見とれてしまいます。新鮮ゆえに臭みもなく、おいしいアジでした。
富山からという白エビ。味付けが淡く、白エビのほんのりとした甘さが引き立てられています。
マグロの赤身。ほんとにおいしい赤身はトロよりも好きなのですが、この赤身も相当おいしかった。
東京湾で獲れたという太刀魚。太刀魚もまた足が早い魚なので、昔は刺身では食べられず、バター焼きか塩焼きで食べた記憶しかなかったのですが、さすが築地です。コリっとした食感が嬉しい。
穴子。ふわっふわでほろほろと崩れそうなほど丁寧に煮てあり、口に含むとじわーっとたれとともにうま味が広がってきます。これは至福の味。
ねぎとろなどの巻物。そろそろ締めに近づいてきました。
そして最後の一貫は、店のすべてのメニューから好きなものを一貫選べます。
これもまた嬉しいサービス。
私は穴子をもう一貫頼んでしまいました。ほかのイクラなどの高そうなものに行ってもよかったのですが、さっき食べた穴子のほんわかしたおいしさをもう一度味わいたくて。
これで締めて4,000円。朝食としてはありえないほど豪華で「もったいない」と言われてしまいそうですが、夜、普通に飲みに行ったと思えば大した金額ではありません。実際に店長さんとの会話を楽しみ、両隣の見知らぬ客とも仲良く話せたりして、味だけでない至福の時間を過ごせたことを思えば、恐ろしく安く感じます。
また、コースとは別に金目鯛のカマなどをつまみに頼みましたが、これもまた滋味深く、量は少ないもののいい肴になりました。
さらに特筆すべきは、ビールの温度。キンッキンとはまさにこのことで、普通の冷蔵庫の10℃をはるかに下回る、かなり0℃に近い温度で提供される一番搾りはほんっとに別物のビールのようにうまかった。これ以来、私も自宅でビールを飲むときは直前に冷凍庫に入れるようにしたくらいです。ただ、忘れてしまって凍らせると取り返しがつかなくなりますからご注意を。
今回は本当に「台風さん、ありがとう」でした。
さすがに炎天下で5時間待つ根性と体力は私にはありませんから、今回築地で「寿司大」に入れたのは奇跡のようなものですし、もしかしたら最後かもしれません。
ほんとはもう一度くらい台風が直撃(いや、ちょっとそれるくらい)してくれたらいいんですけどね。
「寿司大」(築地場内・寿司)
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13002388/