山奥の宿に泊まって、マグロの刺身を出されたときの落胆というか悲しさといったらありません。
いくら物流や冷凍保存技術が進化したとはいえ、そんなものを食べるために来たんじゃない!!とちゃぶ台をひっくり返したくなってしまいます。
同様に、海の近くを旅していながら口に入るものが、輸入ものや養殖物ばかりだったら閉口もの。
しかし現実問題として、現代の鮮魚流通のシステムでは地の魚、特に良質のものが地元に出回ることはそんなに多くはないのです。
また一方で、せっかくのいい地の魚が入っても、それを料理する腕やセンスが劣っていては何にもなりません。しかし多くの店が切磋琢磨し、要求される水準も高い東京とは違い、地方では「なんじゃこりゃあぁぁ」という店が多いのも事実。
地方では客の要求するものが違う(とくに質と量の点で)とか、味覚・嗜好といった客そのものの大きな違いが厳然とあって仕方がない部分もあるのですが、海沿いの町だからといっておいしい魚が食べられるとは限らない、というのが現実でした。
そうしたなかで、この店は地元のいい魚をちゃんとした寿司にして出してくれる素晴らしいお店です。
上の写真は「地魚にぎり」。
その名のとおり、地元で獲れた魚をネタにした握りで、この日(1月上旬)の内容は金目鯛、アジ、メダイなど。
金目鯛の寿司は地元ならではといった感じのもので、その独特のほのかな甘味がうれしく感じられます。
クラゲは細かく切れ目を入れ、海苔で巻いたものでこの店オリジナルのネタとのこと。コリッとした独特の食感が楽しい一品です。
全体にシャリが大きめですが、それに合わせてネタも大きいためにバランスは崩れておらず、そのぶん満足感は高め。一人前で満足のお得感高い寿司です。
また、もうひとつの名物「白菜巻」もぜひ。
ネギトロとたくあんなどを中心に、自家製の白菜漬けで巻いた太巻きで、ぱっと見はキワモノのような感じですが、実際に食べてみるとそのバランスの良さと上品さに驚きます。薄く広げられ丁寧に巻かれた白菜漬けが柔らかにその味を主張し、ふっくらとした酢飯とネギトロといい調和をみせています。上に満遍なくふりかけられた七味唐辛子も質が高く、いいアクセントとなっています。
店の場所は房総半島南部、外房の中心的な町である鴨川の市街地からはちょっと離れた高台。国道128号を南に下って嶺岡トンネルの直前を左に折れた場所にあります。
自分で運転して行くにはちょっとわかりにくい場所で、しかも女将さんの話では一部のカーナビでは全然違う場所を表示したりするとのことで、なかなか行くのは大変かもしれませんが、房総半島に行ったら必ず立ち寄って地の魚を味わいたい店です。
銀座で数万円も出して、緊張しながら寿司をつまむくらいだったら、一泊旅行を兼ねて楽しくゆったり寿司を楽しんだ方が、絶対にいいと思いますよ。
「と貝」(千葉鴨川・寿司)
https://tabelog.com/chiba/A1207/A120703/12002987/