小さめの牡蠣をいくつもまとめて塊にし、衣をつけて揚げたカキフライ。
この店の冬の名物です。
かつて田園都市線のあざみ野に住んでいたころ、ふと見つけて入った洋食の店のことを思いだします。
老夫婦ふたりで営む店で、なにを食べたのか思い出せないのですが、メニューにカキフライがあり、奥さんが「ウチのはね、小さな牡蠣をいくつも集めて作ったもので、遠くから食べにいらっしゃるかたもあるんですのよ」と。
その後すぐに転居したため再び行くことはなく、最近調べたらもうありません。
やめてしまったのか。いや、そもそも本当に存在したのかどうか…。
本題に戻りましょう。
築地の場外でもはずれの、しかも細い路地にある店ですが、ほんとにまあなんでもおいしいのです。
築地ですから魚がおいしいのは当然としても、豚の天ぷらがこれまたおいしい。
噛んだ瞬間、衣に閉じ込められたうま味がふわっと口いっぱいに広がる感じ。
ああ、「口福」とはこういうことを指すのだなぁ、としみじみと感じられます。
1935年に日本橋から築地に魚河岸が移転する前、この一帯は海軍の街でした。
海軍本庁が現在の市場内の水神社の場所に、海軍軍医学校が現在の国立がん研究センター病院の敷地にありました。
この「多け乃」はその当時から続く店。
店内はまさに食堂で、壁じゅうに貼られたメニューの短冊に圧倒されます。
天丼・かつ丼から山うどにほや酢に魚のあら煮まで。
できない料理はないんじゃないかというほどの種類と数。
もちろん刺身もいいものがあります。
なかでもブリは背も腹もいっしょに切ってあって大きく、薄いながらも食べごたえあり。
脂がべたっとしないのは天然ものならではでしょうか。
また、いわしの刺身を頼んだとき表面に細かい庖丁が入っていて感動しました。
仕事が丁寧です。
また、店としては煮魚がいちばんの自慢のようで、常連らしき客の多くがキンメやメバルなどの煮つけの定食をお酒とともに頼んでいます。
なかでもあら煮はお勧めだそうで、私のときはヒラメの頭が2匹分どーんと出てきました。
濃い飴色に煮つけられたヒラメの頭は甘さが強めながらおいしく、日本酒とよく合います。
また、ごはん類も充実しているのでシメもここで。
チャーハンは具は少なめなものの、少し濃いめの味付けがよく、ぱらりとした仕上がりも好感触。
通常のねぎと玉ねぎの両方が入ったチャーハンは珍しく、それが味に貢献しているようです。
とにかく、なにを食べてもおいしくハズレなし。
ただ、定食類を除いては値札がない“時価”となっていて、多少怖いし不透明な気はしますが、だいたいこれまで5回通った経験からするとほどほどに食べて飲んで3,000円、しこたま飲んで食って6,000円くらいと覚えておけば大丈夫。
昼から夜にかけての築地の穴場として、ぜひ覚えておくべき店のひとつです。
とくに「豚天」はぜひ。
「多け乃」(築地場外・鮮魚/定食)
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13007634/