とんかつの断面はピンク色。まるで火が通ってないかのような色の肉は、とても柔らかく、肉のうま味が凝縮されています。
「孤独のグルメ Season7」第1話に出たキセキカツ。
これまでにない、新しい味です。
調理の歴史って、ある意味いかに肉を柔らかく食べられるようにするかの戦い。
スジ切りにしてもマリネにしても、圧力鍋にしても、みな肉を柔らかくするため。
とんかつにおいては「どん平」のようにいったん角煮(水煮)にしてから衣をつけて揚げるものまで登場したくらいです。
そして、このキセキカツは低温調理。焼く・煮る・蒸すに次ぐ第四の調理法と呼ばれ、真空調理とも呼ばれる低温調理は、材料をポリエチレンなどの袋に密封し、57℃や64℃といった一定の温度の中に長時間置くことで調理するもの。
タンパク質が硬化せず、水分も抜けない温度に置くことで、内部まで均一に柔らかく仕上げようというものです。1979年にフランスで開発されたと言いますから本当に新しい調理法です。
この低温調理、ローストビーフには早い段階で使われ、「レッドロック」の山盛りのローストビーフ丼などは記憶に新しいのですが、とんかつに応用したのはこの店が初めてかもしれません。
この店があるのは埼玉の上尾。
駅から10分以上歩いた先にある小さな店は、3年前に「孤独のグルメ」で紹介されてから客が殺到。隣の居酒屋が立ち退いたあとに店を拡張して2倍になったいまでもなお、平日でも予約でほぼ満席という繁盛ぶりです。
しかし、さすがに上尾まで来ると、蔓延防止措置もなく堂々とビールが飲めるのが嬉しい。
ピンク色の赤身はしっとりとしていて噛むと抵抗なく切れる感じ。肉のうま味が凝縮されています。
「ハムのようだ」という感想を言う人がいるのもわかりますが、硬さはなく、スジっぽさを感じることもありません。
低温調理はまた、食味の向上のほかに提供時間が短縮できるのもメリット。事前に切り身の状態で長時間かけて内部まで火を通していますから、あとは衣をつけて短時間揚げるだけなのです。
下味がしっかりついてるので、何もつけずに食べてもおいしい。
ピンク色の塩とレモンをかけるとうま味がさらに引き立ちます。
とんかつソースは味が薄めで尖ったところがない。
ステーキ用のオニオンソースはキャベツにかけると相性抜群でした。
ここに来るには時間も費用もかかりますが、一度は食べておくべき味だと言えるでしょう。
次は「キセキすてーき」をぜひ食べてみたいと思います。
「キセキ食堂」(上尾・とんかつ)
https://tabelog.com/saitama/A1104/A110401/11043868/