飲むと無性に食いたくなったあの独特の色と辛さの排骨担々麺。
もはや“醜いビル選手権”となっている渋谷駅周辺の再開発とともに消えたと思ってたら、すぐ近くできちんと受け継がれて残っていました。
しかも味は記憶のまま。
こんな嬉しいことはありません。
かつて渋谷駅南口から歩道橋を渡ってすぐの場所にあった「亜寿加」。
店内の中央に大きな厨房があり、その周りをぐるっと囲むカウンターでみんながすすっていたのが排骨担々麺でした。
よくあるニッポンの担々麺のベージュ色とは無縁の、火星を思わせる朱色の丼には褐色の塊が浮かんでいます。この、排骨が熱々でうまいのなんの。
醤油が効いた衣に、カレー粉の隠し味がほのかに鼻をくすぐります。
麺は細く、ややキツめの辛さにはよく合っていて、すすり間違えるとむせることも。しかもむせたときに鼻に入るとさらに苦しむことになっていたのもいい思い出です。
その「亜寿加」が忽然と消えてしまい、あの味にはもう会えないのか…と感傷にひたっていたらありました。
「亜寿加の料理長が開いた店」。
再開発の場合、店のオーナーは権利と引き換えに多額の現金か新しい建物の権利(権利床)をもらえるので、それをきっかけに引退・隠居してしまう人も多いのです。
しかし従業員は違います。
多くの場合、閉店即失業ということであり、かといって自分の店を開くには多額の開業資金が必要ですから、なかなかその味を近くで再現するのは難しいことでした。
そうした状況のなかで元の店のすぐ近くで、そのままの味で、しかも排骨担々麺950円というそう高くない値段で提供していることは素晴らしいことだと思います。
ちょっと排骨が薄くなったかなーとか店が狭いなーとかは些細なこと。
オレンジ色の表面の下には、暗褐色の醤油ベースのスープの海。この二層の味を飲み分ける楽しみ。
そしてその意外な熱さに、あちっとかいいながら排骨を噛みしめる喜び。
辛さをまとった丸くやや細い麺をむせないようにと用心しながらすする快楽。
その多重奏の歓喜を、新しくきれいな、でもかつての暗い店に比べてなんか物足りない店で、全身で味わってみてください。
そうそう、無料でつくごはんを、取り放題の高菜で食べる至福も忘れずに。
「Renge no Gotoku」(渋谷・ラーメン)
https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130301/13236477/