これを博多のうどんとは認めたくない。でもおいしい。
昔ながらの博多のうどんとは、もっと麺が白くて太くてふよふよして、ゆですぎで表面が溶けかかっていて、噛むとプツプツ切れるような、そんな腰のないうどんのこと。食事というよりおやつに近く、昼食べるなら稲荷寿司といったご飯とのペアでないと夜までもちません。
2年前に高田馬場に上陸。瞬く間に人気となって行列のできる店となった「大地のうどん」。
「豊前裏打会」という北九州市小倉をルーツとする新興の一派です。
この一派の最大の特徴は、麺。
練り込んだ後で高温と低温での熟成を3日間繰り返すことで、透明感があり、独特の食感を持つ麺が生まれるとのこと。しかも注文を受けてから製麺機で生地を延ばすことでもちもちとした食感を生み出しています。豊前裏打会のメンバーとして初めて東京進出したこの店は、新しい九州のうどんを知らしめる切り込み隊長のような役割を果たしてきました。
しかしこの店の「ごぼう天」は見た目からして異界の食べ物。
まるでスカイダイビングの人々が手を繋いでいるかのようにつなぎ合わされたゴボウが、丼を覆いつくすどころか丼をはみ出して鎮座しています。
このごぼう天、実際に食べようとするとかなりやっかいな代物。丼に沈めて解体しようとしても、丼の中に納まりません。かじりつこうにも削ぎ切りされたゴボウひとつひとつがでかく、しかも箸の力では容易には外れてくれません。
実際に絶対量も多く、ごぼう天を先に食べてしまうともうかなりお腹いっぱいになってしまい、麺やサイドのご飯ものにたどり着く気力を奪われてしまうありさま。恐るべしです。
しかもごぼう天と格闘しているうちに剥がれた衣が落ち、自動的にたぬきそば状態となってスープに油のうま味を与えてしまうのですからなかなか計算されたものです。
頼んだのは「肉ごぼう天うどん」(780円)。巨大なごぼう天に隠れるように、煮込まれた牛肉が浮かんでいます。醤油の原材料に砂糖が使われているほど甘ーい九州の味付けでは、肉うどんの肉と言えば関西のすき焼き風の濃く甘辛い味付けがスタンダードなのですが、ここの肉はけっこうあっさり。スープの味を汚さないというか、余計な味を加えない感じです。これはこれでいいかも。
麺は、朝鮮半島の冷麺を思い起こさせる透明度。噛んでみるとむにゅっと歯を押し戻す感じがあってつるんっと喉を通って行きます。讃岐を含めてもほかにないうどんの食感です。しかしその分、小麦に由来する甘さはあまり感じられません。好き嫌いはけっこう分かれるのではないでしょうか。
スープもまた独特。「羅臼昆布、花かつお、さば節、ウルメいわし節を独自の調合でブレンド」と豊前裏打会のホームページで紹介されていますが、うまみとともに強く感じるのが独特の酸味。澄んだスープの味を探っていきながらどんどん飲んでいってしまうような、そんな不思議な味です。
今回、少し腹が減っていたのでサイドに「ミニかつ丼」(350円)を頼んでおきました。
小さなカツは4切れあり、けっこう厚みがあります。出汁はけっこう濃いめの味で、卵もたっぷり使われていてなかなかおいしい。
しかし、前にごぼう天と格闘したおかげでほとんどお腹に空間が残っていません。最後は四苦八苦しながら押し込んだものの、ご飯を少し残してしまいました。それほどごぼう天の量は圧倒的ですので、注文するときには注意しておいてください。
高田馬場駅の早稲田口を出て左の坂を登ること10分近く。けっこう遠くてしかも路地裏のわかりにくい場所にあります。もし体力的にしんどいとか経済的に余裕があるとかであれば、小滝橋行きのバスでひとつですので、行きだけでも使ってみることをお勧めします。
これまで20年近く東京を席巻してきた讃岐うどんに対抗しうるニューウェーブとなることができるのか。福岡から来たうどんの今後に、さらに注目です。
「大地のうどん」(髙田馬場・うどん)
https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130503/13193668/