5年も前からあったというのに、これまでこの店を知らなかったことはものすごく損をした気分です。
なにがおいしいって、だしがおそろしくおいしい。
もちろん、麺がおいしいのも特筆ものですが、温かいうどんのスープのおいしさはびっくりするほどです。
いりこを中心に昆布などが加わっているのでしょうか、やわらかく染み入ってくるようなうま味はなかなか味わえるものではありません。
このだしを味わうためだけに高田馬場に来て、駅から遠いこの場所にやってくる価値は間違いなくあります。
麺は、断面が四角ではありません。
四角のそれぞれの角が鋭角に突き出している感じ。弾力の強さゆえでしょうか、噛むとぐにっと抵抗し最後まで名残惜しげに切れていく感じ。温かいうどんの場合は、スープが潤滑油の役割でつるつるっと行けますが、冷やしの場合はすするというわけにはいかず、かぶりついて歯で切り離してただもぐもぐとひたすら噛んで味わうことになります。
冷やしのつゆも、醤油が前面に出てくる関東の蕎麦つゆとは違い、まず、だしがあって醤油があるという柔らかなもの。うま味を麺にしっかり絡ませながら食べていくことで小麦の甘さもしっかり感じられます。
普通うどんというものは、具やつけあわせがあってこその食事ですが、この店のうどんならば、それらが一切なくてもじゅうぶん幸せにしてくれることでしょう。それほど基礎がしっかりしているということです。
しかしその一方で、酒肴となる一品一品もまた秀逸。
「だし巻き玉子」はだしに頼りすぎることなく、卵の自然の甘みをうまく引きだしてかちっとしたものにまとめ上げています。
「本日の一品料理」のなかでもこの日おすすめだった「はさみ蓮根のさつま揚げ」も、あつあつの練り物の真ん中にあるさくっとした蓮根の歯触りがうれしく、ついついビールが進んでしまいます。
けっこう大きくて驚いた「寄せ豆腐」も茗荷、ねぎなどたっぷりの薬味とおいしいだし醤油であっという間になくなってしまうほど。
あらためて感じるのは、うどんや酒肴にいたるまでそれぞれに最適なだしを使い分けていること。そのため、どれを食べてもまったく飽きることがなく、見事としか言いようがありません。
カウンター6席と2人席が2つ、奥に8人ほどの席があるだけの小さい店ですので、すぐに店外に行列ができるのはしかたないのですが、それだけ店を営む若い夫妻の客への気配りも行き届いています。
言ってみれば「少し緊張感のある居心地のよさ」。これもまた、特筆ものです。
昼にうどんを堪能するのも良し。
しかし夜、少人数で杯を傾けながら酒肴の数々を楽しんだあと、うどんでしっかりした食事として締めくくるのもまたとない至福と言えるでしょう。
高田馬場から神田川を越えて7分ほど。なかなか辺鄙な場所にあるわかりにくい店ではありますが、行くだけの価値は間違いなくあると約束できる稀有な店。
絶対のおすすめです。
「蔵之介」(高田馬場・うどん)
https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130503/13049983/