江戸の「濃ゆい味」を守る、折詰弁当の老舗です。
新宿伊勢丹など、都内各地の大手百貨店の食料品売り場で買うことができます。
今年4月、電動ボートを1隻チャーターして花見をすることになりました。時間はちょうど12時から、門前仲町近くの大横川の桜を愛でる2時間コース。
江戸の風情あふれる花見を、しかもお昼時に催すのですから、それにふさわしい弁当がなければなりません。そこでたどり着いたのがこの「弁松」でした。
折詰料理の専門店としての創業は、江戸時代末の1850年。特徴は何と言っても冒頭に挙げた「濃ゆい味」です。
「濃ゆい」というのは西日本の言い回しであり、標準語では「濃い」。九州に生まれた私の感覚では「濃ゆい」は多少ネガティブなニュアンスを含んでいるように感じますが、それは薄味の文化と多少関係があるのかもしれません。
正直、関東で「濃ゆい」という言葉を使うのを初めて知りましたが、弁松の「濃ゆい味」は伝統と誇りの証。江戸の味を守り続けているという気概が感じられるいい言葉です。
弁松の基本は「並六」。
約6寸の経木の折に玉子焼き、メカジキの照り焼き、生姜の辛煮、野菜の甘煮、豆きんとんが入ったもの。白いごはんが付いて998円、赤飯だと1,155円です。
これから上に「並六上」「並かし七」「並七」「本七」「本七丸」とランクがあるのですが、基本のおかずは変わりません。
実際、花見に使った「本丸七」と、事前に購入し試食した「並六」を比べてみましたが、玉子焼きと煮物と生姜の辛煮はほぼ一緒。名物とされるタコの桜煮と海老が加わったりしていますが、最も大きな違いはメカジキの大きさと質でした。
「並六」のメカジキは硬く、消しゴムほどの大きさでちょっと筋を感じるものだったのに対し、「本七丸」はふた回りほど大きく、肉質もやわらか。コスト的にかなり大きいウェイトを占めているのでしょう。
また、タコの桜煮はおかずというより酒の肴といった感じの濃い味付けですが、これもまたおいしいのです。
まあ実際、「並六」と「本七丸」の間は1,200円もの価格差があるわけですから、それくらいは違って
ないとむしろ困りますが。なお、この店の弁当が守り続けているのは、味だけではありません。
いまや和食の弁当といえば、発泡スチロールのペナペナしたものばかりになってしまいましたが、この店はいまもなお本物の経木を使っています。ふたを開けた瞬間にさわやかな木の香りがふわっと漂い、なんとも懐かしい気持ちにさせてくれます。
経木の原料は、国内の森林から出る間伐材。ですから石油で作る発泡スチロールなんかよりも
よっぽど山を守り、資源を大切にするのですから、いまこそ経木を使う価値があるのです。
花見だけでなく、大切な人々との集まりで輪になって食事をするような機会があったとき、ぜひこの「濃ゆい味」を思い出してください。
守り継がれてきた古き良きものは、人々の心をきっとひとつにしてくれるはずですから。
「弁松総本店」(日本橋・弁当)
https://tabelog.com/tokyo/A1302/A130202/13011527/