【閉店しています】
「ウチは昭和の店ですからねぇ」。
新宿のはずれ、ふらっと入った洋食屋で、高齢のマスターが笑いながら言いました。
いや、私も昭和のヒトなんですけど…。
「ここらへんも移り変わりが激しくて」。
ここだけ時の歩みが止まっていました。
出てきた皿にはてんこ盛りのおかず。目玉焼きに魚フライにエビフライにウインナーにクリームコロッケにミニハンバーグに焼肉ちょっと。
これで850円のBランチ。すごすぎます。
さらに100円プラスで平皿のライスにカレーをかけてくれます。しかもうずらの卵と揚げ物のかけらのサービスつき。 粉っぽいけどぴりりと辛い、古き良き洋食屋のカレーです。
たしかに昔、洋食のごちそうというものはいろんな料理をちょこっとずつ食べられるものでした。長崎発祥の「トルコライス」しかり、金沢の「ハントンライス」しかり、福井・越前の「ボルガライス」しかりといった風に、お子様ライスの延長線上にあるような似たメニューは各地にあります。
たぶんこれが昭和という時代の「憧れ」だったのでしょう。
もちろん、正しいニッポンの洋食には必須の味噌汁つき。期待を裏切ることがありません。
この店があるのは新宿のはずれ、旧伊勢丹パーキング(パークシティ伊勢丹1)の裏にある「三番街」という細い路地。
とんかつや中国料理、怪しげな喫茶店などが並ぶ知られざる飲食店街の一角に、色あせた看板とともにこの店はあります。
…やっぱり来てたか、「きたなシュラン」。
店内は壁にかけられた品書きにうっすらと油膜が見え、店全体がセピア色に凍ったかのようです。
この店のランチメニューは三種類。日替わりとAランチとBランチ。
それぞれ盛り合わせる料理が微妙に違うのですが、ミニハンバーグとクリームコロッケは必須で不動の地位を保っている様子。しかしそんなに大きな違いはなさそうです。
ただ、同じBランチでも日によってかなり見た目と内容が変わります。焼肉がついてたり、パイナップルがついてたり、かと思えばウインナーが赤かったり茶色かったりと、ほとんどマスターの気分次第のようです。
じゃあメニューは3種類しかないのか、と思うとそうではありません。
午後1時すぎならば、という条件がついたりもしますがユニークそうなメニューも。
そこで「ポークのチーズ焼き肉定食」(1,000円)を頼んでみました。
そして待つこと10分。「ポークのチーズ焼き」として出てきたのがこれ。
どこどこ?ポークのチーズ焼きは?
まず目に飛び込んでくるのはエビフライ2本とイチゴ2切れ。背後にそびえるのはキャベツとレタスとコーンのサラダです。
イチゴにはびっくりしましたが、久々に1,000円以上のメニューの注文があったことでマスターが喜んでくれたのでしょう。大サービスです。
そしてイチゴの下に目を凝らすと、やっと豚肉らしきものが。
ありました。ポークのチーズ焼きが。
主役なのに、一見して居場所がわからないとは奥ゆかしいのか高等戦術なのか謎です。
豚肉は生姜焼きよりは厚め。加熱され固まったチーズとともに噛み応えがあります。デミグラスソースとも相まって、率直に言っておいしい。Bランチよりもおいしいです。
ご飯はつい出来心で「大盛り」(+100円)を頼んだところ、3合はあろうかというとんでもない山盛りの上に、勝手にカレーがかかってきました。サービスのつもりなのでしょう。さらに唐揚げも。
たぶんこれが高齢のマスターの愛情表現、感謝の表し方なのでしょう。有無を言わせないところがすごすぎます。
お約束のスパゲッティはソフトめんのようにゆるゆるぶよぶよですが、ケチャップだけでなくひき肉も一緒に絡められた本格ソース味でコストがかかってます。
正直、この大量のおかずと、さらに大量のご飯とカレーを食べるのは非常に無理がありました。
サラダやエビフライのマヨネーズ類がくどく、辟易する部分がなかったわけではありませんが、それでも個々の料理は昔ながらの手の込みようで、ひとつひとつはおいしく食べることができました。
ただ、途中でギブアップしそうになりましたけどね。
しかし、昭和の古き良き時代をそのまま冷凍保存したかのようなこの店。
礼儀正しくサービス精神満点のマスターと、いまだチャーミングさを残す奥様とで、ずっとこの空間と味を守っていっていただきたいものです。
いいお店を見つけました。
「いづみ」(新宿・洋食)
https://s.tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13088967/