東京では珍しいおでん種「ころ」です。
注文したら、ご主人に確認されました。「ほんとに頼むんですね?」と。
はい、ころを食べるために来ましたから。そう言うとご主人は軽く笑顔で頷き、「それでは、温めてきますので」と奥に消えていきました。

ご主人の前にあるおでん鍋には入ってない「ころ」とは何か。

それは、鯨の脂身です。
鯨の脂身を加熱し、油を取った残り。かつて鯨油は行灯などの照明用のほか、近代においても精密機器の潤滑油やマーガリンなどの食品原料として幅広く利用されてきました。
その鯨油を取った残りが「ころ」ですが、鯨の脂身はいい出汁がでるため、とくに関西ではおでんの具として欠かせないものでした。
ところが40年前の商業捕鯨モラトリアムによっておおっぴらに鯨を捕れなくなり、価格も高騰。鯨肉は食卓から遠のいてしまいます。

この店の「ころ」は、写真のふたつで1,500円。高級なこの店でも破格です。
だからおでん鍋には入っておらず、ご主人は本当に頼むのか確認したのです。
その「ころ」の味。油が抜けてスポンジのような食感になった脂身ですが、噛むとうま味が出てきます。おでんのつゆのうま味もしっかり吸ってなんとも言えぬ味わい。

「昔は安かったから普通に食べれたんですけどねぇ」というご主人は、やや寂しそうですが、久々の「ころ」の注文だったのでしょう。喜んでくれました。

この店があるのは浅草。

浅草寺の裏を通る言問通りを西にちょっと行った場所に提灯が下がった門があり、細いアプローチの奥に玄関が。

店内は江戸の風情を感じさせる贅沢な造りで番台があり、客を待ち構えます。1階がカウンター、2階3階は座敷がメインのよう。
日曜の夕方だったので入れるかな、と思ったのですが運良くカウンターに潜り込むことができました。
もちろんほかにもおでんを頼みます。

とくにおいしかったのは、はんぺん。溶けるのです。口の中で。
紀文のもののようなマシュマロっぽい弾力ではなく、綿菓子のようなはかない弾力。口に入れるととろーんととろけるように消えるのです。これはうまい。

また、エビ爆弾は魚のすり身のなかにむきエビがコロコロと入ってておいしい。

スジは牛ではなく関東独特の魚スジ。

はんぺん用の身を取った鮫のスジや軟骨を練り合せたもので、食感だけなら洋菓子のよう。たっぷり出汁を含んでこれもまたおいしいのです。

その他、大根、バイ貝、揚げぼうる、雁もどき、おたのしみ袋(巾着)など色々食べましたが、どれもおいしく満足のいくものでした。

とにかく出汁がおいしいのです。

また、牛すじの煮込みもまたよし。
西日本では牛すじはおでん種で、コンビニの影響でそれが全国的に標準となりつつありますが、この店では牛すじは別物。

甘辛く濃い味に煮付けられた牛すじはまた格別のおいしさでした。

もともと大阪からやってきてこの地に根付き、関東大震災、空襲をもくぐり抜けたおでんの味。
決して安くなく、普段なら予約を取るのも難しい店ですが、コロナ禍のなかいまなら人気のカウンター席もあいてます。
いまこそ黄金の出汁の至福を味わってみてはいかがでしょうか。
「大多福」(浅草・おでん)
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131102/13003741/











