ふたが閉まりません。
写真は、「わらじかつ丼 2枚入り」。わらじの名に恥じぬ巨大なカツが、普通の大きさの丼を覆いつくし、さらにふたも持ち上げるようにして鎮座しています。
丼なのですから、ごはんと一緒に食べるのが掟。しかし2枚のカツは巨大な漬物石、いや天岩戸のようにご飯にのしかかり、箸の侵攻を阻みます。
そこで裏返して置いたふたに上のカツを乗せておき、下のカツとご飯を食べるのがこの店の”作法”。
まあ作法というより、この方法以外に食べる方法がないためにおのずからそうせざるを得ない食べ方なのですが。
秩父に、わらじかつという巨大なカツがあるらしい。
この話は何年も前から聞いていて、秩父を訪れる度に探そうとは思ったものの意外に情報がなく、探すのが面倒だったことと、ほかにもおいしそうなものがあったために食べる機会がありませんでした。
今回、日経電子版「食べB」の読者参加企画として行われた「みんなで埼玉実食編」に加わり、このわらじかつ丼を食べるため「だけ」にわざわざ秩父までやってきたのです。
西武秩父駅から南に歩くこと15分ほど。我々が目にしたのは蔦で覆われたボ…、いや歴史ある建物と、10人近くの大行列でした。
30分近く待ったでしょうか。ようやく店内に入ってみると、そこには6人用のカウンター席と小上がりがあり、こたつが2つ。初夏というのに、こたつ布団がしっかりかけられています。このキャパシティなら並ぶはずです。
カツは注文を受けてから、まず叩いてのばし、衣をつけて揚げています。キツネ色をやや通り過ぎた頃合いで取り出して、そのままタレに投入。しっかりしみこませてから丼に盛り付けます。
まずカツを頬張ると、サクッとした歯触りとともに甘いタレの味が口いっぱいに広がります。肉は非常に軽い口当たりで、一瞬鶏肉かと思ってしまうほど。その柔らかさは「まい泉」のカツサンドのようです。
この甘いタレは何か。同行者2人と議論になりました。
私はソースを出汁で延ばしたものだと思いましたが、ひとりは甘醤油。もうひとりは醤油とソースの混合ではないか、とのこと。結論は出ませんでしたが、単純なソース味ではなくかといって醤油のしょっぱさがあまりない複雑な味は意外にくどくなくて、いい相性でした。
なお、卓上のプラスチック瓶には山椒がすごく多めの独自調合と思われる七味唐辛子がありますので、2枚のうち後半の1枚を食べる時にはこれをかけると味に変化が出て飽きが来なくていいかもしれません。
なお、カツのすさまじいボリュームに比べると、ご飯は控えめ。これも意外にペロッと行ける理由でしょう。
「わらじかつ丼」以外にメニューがない店ですが、この意外に軽いサクサク感の巨大かつを味わいにわざわざ秩父まで来るまではないにしても、観光で秩父まで来ることがあったらちょっと足を伸ばして挑戦してみるには非常にいいと思います。
「安田屋」(秩父・かつ丼)
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