立ち飲みのこの店で破格に高いメニュー、トンテキ(800円)です。
高いとはいえ、「250g以上」とあり、けっこうなデカさ。味付けはケチャップベースのBBQソースといった感じで豚肉の甘みとよく合っています。
この店には場違いなフォークとナイフでキコキコ切って食べると、これだけでお腹いっぱいになりそうなほどのボリュームです。
上野と御徒町の間のガード周辺は昔からごちゃごちゃと飲食店が並ぶ街でしたが、最近は昼から飲めるやきとんの店ができたりとそのカオスっぷりに拍車がかかってきました。
そうしたなか、この店は古くから安い立ち飲みの店として知られてきました。
だだっ広い店内にはたくさんの背の高いテーブルが置かれ、老若男女がそのテーブルにかぶりつくようにして思い思いに飲み、語らっています。
ところが、実は店の奥に座席があることはほとんど知られていません。
店の一番奥を右に曲がった場所にある12畳ほどの空間に20席。ひしめき合うように座るものの、立ったまま飲むよりもはるかに快適であることは言うまでもありません。
この日は台風が接近中。上野の美術館でエッシャー展を見たあと、連れと一緒に飲もうということで下界に降りてきたのですが、すでに激しい雨が降る中、土曜日というのに上野の街は人が少なめ。そのおかげで席に座ることができました。
まず頼んだのは「牛すじの煮込み」。なんと150円です。量は少なめとはいえ、それでもひとりには十分な量です。しかもとろっと煮込まれておいしい。なんでこの値段で出せるのか不思議なほどです。
日替わりのカルパッチョ(350円)も、普段イメージするペラペラの薄切りが敷き詰められているものではなく、まるで刺身の盛り合わせのような山なり。ほのかな酸味は酒の邪魔をせず、日本的なカルパッチョです。
こういう店で頼むのはやはりホッピーセット(350円)でしょう。そもそもホッピーは昔、京浜東北線よりも東側でしかお目にかかれないものでした。もともと割り材ではなく純粋なノンアルコールビールとして販売されたホッピーは、酒税がかからないために安く、「ビールは飲みたいけれど高くてなかなか飲めない」層が、ホッピーで甲類焼酎を割ることでビールの代わりとしたのが現在の飲み方の始まり。つまり「貧乏人の代用酒」であり、日陰者の存在だったのです。
それが社長の娘(現在の社長)のイメージアップ戦略によって「なにかかっこいい飲み方」となり、しかもプリン体が入っていないことをアピールしたおかげで徐々に京浜東北線の東側、つまり山の手のほうにも浸透していき、若い世代に新しいお酒として受け入れられたことでいまや東京のどこでも飲めるようになってしまいました。当時を知る人間としては隔世の感があります。
メニューは非常に多く、ビーフシチュー(500円)などというものも。ちょっとケチャップっぽい味ではありますが、それがむしろ親しみやすく、チープな酒場のチープな酒にあっています。
トマトチーズ焼きはカリカリに焼いたチーズが香ばしく、量は少ないものの満足感はしっかり。こうしたたくさんのつまみで飽きさせないように工夫がされています。
たかが立ち飲み、されど立ち飲み。
最近は立ち飲みスタイルのくせに安くない店も登場してきましたが、ここは安くておいしくてしかもスタッフも親切で非常に居心地の良い店。
いつまでもこういう店があり続けてほしいものです。
「カドクラ」(上野・立ち飲み)
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131101/13093062/