10年ほど前は、味はともかく普通のとんかつ屋でした。
並ぶことはなかったし、家族連れもいて、地域に親しまれる店といった風情でした。
それがいまではいつもいつも大行列。今回も開店前30分の17:30の時点で私の前に4人。開店直前には全部で24人が並んでいましたから、有名になってしまったものです。
いまでこそ「成蔵」「とん久」「ひなた」と名店が競い合う「とんかつのメッカ」となった高田馬場ですが、その伝説の始まりはこの店。知られざるとんかつの名店として、長くこの地で愛されてきました。
その特徴は、サクサクしながらどこまでも柔らかい衣とジューシーな肉。ここまで軽く揚げられるのはなぜだろう、というほどの軽さです。
写真は今回食べた「特ロースかつ定食」(2,160円)ですが、肉が特別大きいわけでも厚いわけでもない。ただただ軽く、うまみが肉汁とともにあふれる肉であって臭みが一切ありません。下味もしっかりついているので塩だけでも、いや、塩すらなくてもおいしく食べられます。
塩については、アンデスの塩だか抹茶塩だの天ぷら屋のように凝る店も増えていますが、この店は「めいらく天日塩 海翁」一種類のみ。1kg 864円のむしろ安いほうの部類に入る塩です。
もちろん、ソースも自家製が用意されています。一般的なとんかつソースではなく香り高いウスターソースで、店はこれがいちばん合うと思っているのでしょうが、かといってこれをそのまま押し付けるわけでもなく、テーブルには2人にひとつの割合で市販のケチャップが置かれ、客はこれを混ぜてそれぞれ好みの味にできるようになっています。
実際、今回食べたなかで、ソースをつけて食べたのは2切れだけ。あとは何もつけないか塩だけで食べました。ソースではかえって肉のうまみがわからなくなって物足りないのです。
もし、このとんかつをどうしてもソースを使わなければ食べられない、というのであれば、その人は単に「ソース味のものを食べたい」のであって、お好み焼きでもたこ焼きでも焼そばでも何でもいいということなのかもしれません。そういう人はむしろこの店には行く必要がないのでしょう。
しかしここまで行列のできる店になってしまうと、めったに行くことができません。
「これだけ並んだんだから…」と客の多くが「特ロース定食」「特ヒレ定食」を注文してしまう気持ちはよくわかります。
今回、私も「特ロースかつ定食」を頼んだ上に、カキフライをつけてしまいました。
カキフライは2個で500円。これもまたサクッサクの衣に、ほとんど生のままの牡蠣。とろけるような食感とともにとろんとした牡蠣のうまみが口いっぱいに広がります。これは高くない。
ご主人の仕事ぶりも変わらず。以前はコック帽だったのが簡素になったくらいでしょうか。
かつては日曜・祝日以外は毎日営業していたのですが、現在は火・水と金・土だけの営業になったのは、お年を召されたからなのでしょう。
この店を最初に訪れたのは13年前。
当時、激しく感動したその料理はいまも変わっていません。
今回、特ロース定食とカキフライとビール中瓶を頼んで3,500円。ヘタな居酒屋などに行くよりも満足感が非常に高い。
お手頃価格のランチも健在のようですから、ぜひ一度行列覚悟で行ってみて「食の感動」を味わってみてください。
この店が、長く続くことを心から願っています。
「とん太」(高田馬場・とんかつ)
https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130503/13003984/