ナポリタンって、基本的に下品です。
もとは進駐軍兵士が持ち込んだケチャップ炒めのスパゲッティ。
これを横浜のホテルが改良してナポリタンとして提供を始めたのですが、ご存知のとおり、ナポリにナポリタンはありません。
かつて、ナポリタンは絶滅の危機にありました。
高度経済成長からバブル期にかけて本格的なパスタが日本に入ってきて、和風化されながらも日本人の食生活のなかに入り込んでくると、以前の「ミートソース」なるものや「ナポリタン」なる“邪道”は徐々に片隅に追いやられていきます。
私の記憶では、90年代中ごろに東京でナポリタンを提供する店は神保町の「さぼうる2」などごくわずか。このまま絶滅するのではないかと思えたものです。
ところがこの10年で風向きが変わります。
昭和への郷愁とともに、いわゆるB級グルメがブームとなり、それを受けてナポリタンを専門で出す店が現れ始めたのです。
古い世代にとっては懐かしく、新しい世代にとっては安くてボリュームがあるメニューとして。
さて、前置きが長くなりました。
この店のナポリタンは、下品ではありません。
細くて腰のある麺に、甘いフルーツの香りをまとったケチャップベースのソースがからみ、べたつかずパサつかずの絶妙な塩梅。
具もひとつひとつに気が配られていて、とくにエビはぷりっと柔らかくて甘い。
これをひとくち食べた女性漫画家が、感激のあまり涙したというのもあながち誇張ではないと思います。
そのほか、細く切った紫蘇の葉が皿を覆い尽くす和風スパは、ちょっと辛めの醤油味。
これだけのコストをかけて紫蘇の風味を味わわせたいという心意気に胸を打たれます。
また、じっくり煮込まれたカレーがたっぷりとかかったカレースパは具もたくさんでスパイシー。カレースパ、というと単にスパゲッティとカレーを組み合わせただけの異端メニュー的な印象を受けますが、それを覆して余りあるほどの完成度です。
全体的に量は多めで、スパゲッティ類にはサラダもついてきます。
ジュース系のドリンクも、ひと手間かけた甘さのおいしいものが揃い、これもまた味わってみるべき一品です。
築地の場外市場のど真ん中、ちょっとわかりにくいビルの2階にある小さな店ですが、知る人ぞ知るおいしいスパゲッティ(パスタではなく)のお店。
築地は魚だけじゃないんだよ、と友人知人を誘ってぜひ一度訪れてみてください。ただし、並ぶときはけっこう並びますので。
「フォーシーズン」(築地場外・パスタ)
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13053624/