中野駅の北東は、時の止まった飲み屋街。
小さな店がびっしりと220軒ほど密集する様は戦後の闇市の風情を色濃く残し、夜に街中が光り輝く様は縁日のよう。
その奥のほうに1本の大木を中心にした小さな広場があり、取り囲むように古い小さな店が並ぶ姿は昭和そのもの。リアル「新横浜ラーメン博物館」です。
そのなかの店のひとつが、今回訪れた「川二郎」。
食べログの「TOP5000」にも入るうなぎ専門店ですが、実はこの店には鰻丼も鰻重もありません。この店が提供するのは、普段目にすることのない鰻の切れ端。
ヒレだとかキモだとか、腹身だとか。我々が普通の鰻屋で目にする蒲焼きに使われない部分がメインなのです。
昔、鰻は高くなく、庶民でもときどきは食べられる程度のものでした。なのにそんな時代から、蒲焼きに使われない、捨てられるような部分をわざわざ串にして提供していたのはなぜか?
それは労働者むけの安酒場だったから。捨てる(ほうる)ような牛の内臓を焼いた大阪の「ホルモン(ほうるもん)」と似た立ち位置だったのでしょう。
しかしホルモン同様、鰻も捨てられるような部分こそがおいしい。
とくにおいしかったのは八幡巻き。鰻の腹身をゴボウに巻いて焼いたもので、本来の京都発祥の八幡巻きよりは簡素ですが、腹身を使うことで脂が乗っていておいしい。
そのほかヒレのついた部分だけを串にぐるぐる巻きにした「ヒレ」も食べ応えあり。
肝の部分だけ刺した「キモ」もほろ苦さがまさに大人の味。
以前は自由に注文できたのですが、今回行ってみると最初に5本のおまかせコースが必須となり、その上で自由に追加注文できるようになっていました。
ただ、5本はどれもおいしく、それだけでは足りないと思うでしょうから問題はありません。逆に言えば質の低い客が駆逐されるので、居心地はいいはずです。
鰻のうまさをとことん堪能できてなお安い。
渋谷の「うな鐵」に並ぶおいしさの上に、昭和の素適な雰囲気までついてくる店として、一度は行ってみる価値があると思います。
ぜひ。
「川二郎」(中野・うなぎ)
https://tabelog.com/tokyo/A1319/A131902/13020026/