表面を覆い尽くす辣油の海が、あまりにも衝撃的。
“担担麺ってこんなものかな?” と、想像しながら作ったのでしょうか。
「妄想ニホン料理」というテレビ番組を思い出させます。
これは房総半島のB級グルメ、勝浦タンタンメン。その発祥の店がここ「江ざわ」です。
昭和29年に勝浦漁港近くで大衆食堂として創業したこの店が創り上げたのが、私たちがふだん想像する担担麺とは似て非なるこの血の池地獄のような一品。
これが勝浦の人に受け入れられ、周辺の店に伝播し勝浦タンタンメンというご当地グルメとなったのです。
見た目そのままに辛く、店内でも多くの客がその刺激にむせ返っています。
具と呼べるものはひき肉と1cm角に切られた玉ねぎ。
この玉ねぎがほのかな甘みを醤油ベースのスープに加えています。
赤い海の底に沈むのは細くわずかに縮れた麺。
ゆで加減は柔らかめでむしろスープに合っています。
これで麺が固かったら、喉への刺激がダブルとなって食べにくいことこの上ないかもしれません。
山盛りでトッピングされた白髪ねぎもいいアクセントとなっています。
見た目も味も、とっても刺激が強すぎるタンタンメン。
しかしこれを担担麺としてではなく、まったく別の料理だと思って食べるならば「あり」です。
確立された独自のおいしさがここにはあります。
だいたい、”なんちゃって担担麺”などとと笑ってはいけません。
というのも、そもそも日本の”普通の”担担麺が「似て非なるもの」なのですから。
戦後まもなく日本に渡って来た四川生まれの料理人・陳健民氏が、本来小さな椀に汁なしで提供される本場の担担麺を日本人に受け入れやすい汁そばに変更、さらに芝麻醤(胡麻のペースト)を入れて日本人好みのマイルドな味にするアレンジを施したものが現在の日本の担担麺。
ですから、日本の普通の担担麺もまた、四川から見ればじゅうぶんに”なんちゃって担担麺”なのです。
現在のようにネットもなく、テレビなどのメディアも限られていた時代。
房総半島の片隅でひとりの男が少ない情報を頼りに試行錯誤の末に創り上げたメニューが、いまや関東を代表するB級グルメとなったのですから、素直にその偉業を讃え、味わいましょう。
店は、アクアラインからそのまま圏央道にまっすぐ行き、市原舞鶴ICから国道297号線を勝浦方面に30分ほど行った場所にある「武道大学野球場入口」交差点を左折。500mも行かずにたどり着きます。
一時、勝浦から鴨川に拠点を移していましたが去年、ふたたび勝浦に戻ってきたので、店はぴかぴか。勝浦タンタンメンにとっては”王の帰還”もしくは“大政奉還”といったところでしょうか。
一度は食べてみる価値は間違いなくあると思います。
「江ざわ」(千葉勝浦・勝浦タンタンメン)
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