メニューは「つぶ焼き」と「ラーメン」だけ。
ほんとにこの二種類しかないのです。チャーシューメンも餃子も半ライスもない。
たった二種類でよくやっていけるものだと思いますが、実際には大繁盛だから驚きます。
「つぶ焼き」とは、つぶ貝という巻き貝を焼いたもの。「ラーメン」は漆黒のスープにちぢれ麺が潜むシンプルなもの。
ここは釧路の繁華街。寂れつつあるとはいえ、たくさんの飲食店が軒を連ねる街の片隅で10人ほどのカウンターに4人用テーブル3つだけの店が、夕方からずっとほぼ満席。
なぜか。「つぶ焼き」が信じられないほどうまいから。
つぶ貝は正直、貝のなかではそんなにうまい方ではありません。独特のえぐ味と臭みがあり、食べるのも結構面倒です。
ところがこの店の「つぶ焼き」だけは別物。
醤油ベースの独自のたれが臭みとえぐ味を消し秘めたうま味を存分に引き出しているのです。
5つの窪みをつけた小さなまな板に乗ってくるつぶ貝は真ん中が大きくてあとは普通サイズで一人前900円。釧路の物価からすると結構なお値段です。
しかしこれを食べはじめると夢中になって身をほじくり、残ったたれをすすっては至福のひとときを過ごすのです。これを「高い」という客はいないでしょう。
そして漆黒のラーメンもまたうまい。
漆黒ながらそうしょっぱくなく、たぶん鶏ガラと海産物のうま味が折り重なったスープに、ちぢれ麺がよく合っています。
食べログの釧路ラーメンのランキングで、並み居る専門店を押しのけて2位という順位がその実力を物語っています。
今回、仕事で釧路を訪れることになったときこの店には必ず行くと決めていました。
というのも、この店には10年ほど前に偶然入り、「つぶ焼き」のあまりのうまさに心から感動していたのです。久しぶりの「つぶ焼き」は、その感動の記憶を裏切りませんでした。
多くの客が「つぶ焼き」とラーメンとビールを頼んで客単価2,000円超。それで滞在時間は短く、回転はいいのですからこれほど効率のいい経営はないでしょう。
ただ黙々とつぶ貝を焼き、ときどきラーメンの仕上げを手伝う大将に、軽い嫉妬を覚えながらこの「つぶ焼き」を守り続けてくれたことに感謝しました。
とにかくこれほどうまい貝はない。そう断言します。もし釧路に行くことがあれば万難を排してでも行くべきお店です。
「かど屋」(釧路・つぶ焼き/ラーメン)
https://tabelog.com/hokkaido/A0112/A011201/1017376/