この店は昔、寿司屋だったそうです。
魚の品質の高さと扱いのうまさはまさに寿司職人譲りということでしょう。
父親から息子が継ぐときになって、魚を中心とした定食屋に改装。不思議な店内レイアウトだと思っていたら、寿司屋時代のカウンターを構造上、残したためだったのですね。
レイアウトの最大の特徴は、横一列に並んだおひとりさま席。
元の寿司屋のカウンターを背にする形でソファーシートがあり、そこに小さなテーブルが5つ。反対側は通路となっているため、二人掛けにはできません。昔話題になった映画「家族ゲーム」の配置ですが、いまのコロナ禍においては理想的な配置と言えるかもしれません。
ただ、通路をはさんで壁側には二人用のテーブルがふたつ一組で3組。こちらはけっこうぎゅうぎゅうに押し込められた感じです。
料理は、昼も夜も魚が中心。昼は定食として固定され、夜は基本的に同じものが一品料理としてメニューに載り、ごはんと味噌汁、小鉢を350円のセットとして提供する形です。
最初に書いたように、寿司屋だっただけあって魚料理のおいしさは飛びぬけています。
刺身は日替わりでブリからサバからタイからホタルイカまで、その日によって旬のものが並びます。見るからに新鮮でおいしいものばかり。それで単品750円、定食にしても1,000円前後なのですから驚きです。
刺身以外でも焼き魚、煮魚、フライなど多彩。
サゴチ(鰆の幼魚)とハタハタの「香味焼き」はかなりの美味で驚きました。
また太刀魚の塩焼きといった素朴なものも。私の故郷・九州では太刀魚は安い魚の代名詞みたいなもので、バター焼きがよく食卓にのぼったものですが、いまや高級魚に近い存在になってしまいました。
魚以外にも、豚丼や肉豆腐、牛すじカレーなどが用意されていますが、これらも片手間で作ったというレベルではありません。
豚丼はしっかり甘辛く味付けがされた肉が丼を覆い隠すほどの迫力。
肉豆腐は玉ねぎの甘さが嬉しいやさしい味です。
そのほか、酒の肴に頼める単品も。
定番の「身欠きニシンの煮付け」は見た目真っ黒ながらそれほどしょっぱくなく、コクのあるうまさ。
「松前漬け」は数の子がゴロゴロ入っておいしい。
「だし巻き玉子」はだしがあふれんばかりのしっとりしたもので、ふわふわでもちろんだしの味もしっかり。丁寧な仕事の一品です。
ビールと一緒にこうした肴を1、2品頼んで、あとは定食スタイルでもう一品、という「おひとりさまのプチ贅沢な夕食」が気兼ねなく楽しめるという点で、非常に使い勝手のいい店だと言えるでしょう。
若松河田駅から路地を抜けて5分くらいの場所。周囲に東京女子医科大学病院と国立国際医療研究センターという巨大医療機関がありますが、近いわけではありません。実際はほぼ住宅地です。
昼は息子の奥さんらしきひとがサービスをし、夜は母親らしき人が担当。まさに家族的な温かさを感じます。
決して便利とは言えない場所にある小さな店ですが、これほど魚がおいしく手軽に楽しめる店はなかなかありません。
近くに用事があった際にはぜひ訪れてみてください。
「蕾」(若松河田・鮮魚料理)
https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130504/13122912/