上の写真はラグメン、という麺料理です。小麦粉の麺に肉と野菜を炒めた具をかけたもので、シルクロード一帯に同じ名前の料理があります。
麺は太めのスパゲッティのようで歯ざわりもちもち。ややあっさりしたたれがいい感じです。
このラグメン、作り方は独特で、小麦粉をこねた塊をあやとりのように伸ばして作ります。
伸ばして作るこの麺の製法は、中国では「拉麺(ラーミエン)」といいます。実は「拉麺」は日本のラーメンの語源。戦前に大陸に渡った日本人が麺を伸ばす様子を見て「拉麺」を中華風の汁そばの名称だと思い、ラーメンという名で日本に広めたのではないかと言われています。
そして日本で独自の進化を遂げたラーメンがいま、中国に渡って人気を博し、その結果中国でも汁そばのことを「拉麺」と呼ぶようになっています。本来の製法の名称が、異国から戻ってきて料理名に置き換えられるというのも不思議なものです。
そしてラグメンの語源もまた「拉麺」と言われています。つまり、日本のラーメンと中央アジアのラグメンは、語源が同じということ。料理という文化の伝播の過程の面白さを感じます。
さて、ウイグルと聞いてどこにあるのかを言える人はそう多くないでしょう。
現在の中華人民共和国の北西部、中東やヨーロッパにつながるシルクロードの要にかつて存在した国でした。現在は中国共産党政権の支配下にあり、一部が新疆ウイグル自治区という名前がつけられています。チベットと並び、弾圧と抵抗の歴史が続いている地区です。
そのウイグル料理専門店として東京にあるふたつのうちのひとつがこの店。老舗のほうになります。
場所は新宿と初台の間の甲州街道から少し入った場所。
以前は店内がかなり暗く、写真を撮るのに苦労したのですが、今回来てみると普通の明るさになってました。
中央アジアの肉と言えば羊。この店の料理も多くが羊肉を使った料理。
スパイスをつけて焼いたラムチョップ「カゥワゥルガ カワプ」(750円)。やはり羊肉はこの部位がおいしい。辛めのスパイスとも絶妙です。
手前が焼鳥の「トホ カワプ」(200円)、向こうの2本が羊肉の「シシカワブ」(280円)、通称シシカバブーです。
鶏はやっぱり焼鳥だし、シシカワブのほうがうま味があっておいしいです。串が金属のため、直接かぶりついて食べるときは頬をやけどする恐れがありますのでご注意を。
また、ぜひ食べてほしいのが「ポロ」(中750円)。ピラフですが、右に添えてあるものはヨーグルト。
このヨーグルトをピラフの上にかけて食べるのがウイグル風。甘酸っぱいヨーグルトの味は最初、ピラフと合わない気がして戸惑いますが、それは初回だけのこと。2回3回と食べるうちにこの妙な取り合わせのとりこになっている自分に気づきます。異文化体験としてぜひ試してもらいたい一品です。
これは「ゴシ ナン」というウイグル風ミートパイ(980円)。
これはモンゴルおよび中国の「肉餅(ロウビン)」にそっくり。カリッとした皮に、薄く詰められた肉を中心とした餡がおいしい。
「ゴシマンタ」(3個600円)は肉まん。皮の閉じ方など見た目は小籠包ですが、大きさは小さめの肉まんです。シルクロードを通じて文化交流が行われたことがわかる興味深いメニューです。
これは「サムサ」(3個900円)。パイとまんじゅうの中間と言ったらわかりやすいでしょうか。肉を中心とした餡もたっぷりと入っていてこれもおいしいです。
全体に野菜のメニューが少ないですが、「ショホラ ハミセイ」(中580円)という名のやや日本的なトマトのサラダもあったりして不足感はありません。
シルクロードの料理と言えば、東中野に「キャラヴァンサライ」というアフガニスタン料理の店があります。このふたつの国の距離は2,000㎞以上離れていますが、ラグメンをはじめ料理がかなり重なることに驚かされます。
砂漠のなか、あるいは険しい山脈を越えて交易のために人々が通ったシルクロード。その歴史の匂いを感じられる料理をぜひ味わってみてください。
「シルクロード タリム」(初台・ウイグル料理)
https://tabelog.com/tokyo/A1318/A131807/13110569/