鳥栖駅といえば、かつて九州の鉄道の要衝でした。
九州を南北に貫く鹿児島本線と、東西に走る長崎本線と久大本線とを結ぶ結節点であり、おそろしく広い構内にはさまざまな列車が行き交い常に活気にあふれる駅でした。
私が幼いころはまだ蒸気機関車の姿を見ることができ、
転車台で方向転換する姿も見られたものです。
その活気があったころから続く、ホーム上のうどんの店。
客は列車の待ち時間、このスタンドに鈴なりになってあわててうどんをすすっていたものです。
しかも昔は、このうどんを”テイクアウト”する姿もよく見られました。テイクアウトでどこに持っていくのか。それはもちろん列車内です。
鳥栖駅に停まると客がダッシュで駆け降りてきてうどんを注文、テイクアウト専用の黄色のぺらぺらのプラスチック容器に入れられたうどんを手に、あわてて車内に戻ってきます。
車内ですするうどん。その姿はいまとなっては信じられないものではありますが、かつてこのあたりでは普通に見られた光景です。
いまでも店頭に「容器代30円」の紙が貼られていますから、テイクアウトできないことはないのでしょう。
さて主役のうどん。
薄味のつゆに浮かぶ麺は、太くて丸い断面のふにゃふにゃのもの。
いまでこそ讃岐うどんの全国への普及でうどんにはコシがあるのが当然のように思われていますが、九州のうどんはもともとふにゃふにゃのぶちぶち。ふやけてしまったのではないかと思うほど。
これは、もともとのうどんという食べ物の目的が違うことによるもの。九州のうどんは(関西もそうですが)麺を味わうというよりも、薄味のおいしいだしをからませて食べるものというものですから小腹を満たす目的としてはこれでいいのです。
だしは昆布や煮干しをベースにしたもので、上記のとおり薄味。これに必ず付くトッピング「かしわ」によって甘辛さが加えられています。
「かしわ」とは九州で鶏肉を指すことばで、ここで言う「かしわ」は甘辛く煮てほぐしたもの。これがなかば強制的にうどんに乗ってきます。
これが基本メニュー「かしわうどん」で320円。客は、これにトッピングを加えた「月見」「丸天」「ごぼう天」「えび天」「あすぱら天」を選ぶことができます。
今回、私が食べたのは「ごぼう天うどん」(420円)。
ごぼうを短冊型に切ったものを天ぷらにしたもので、九州のうどんではごく一般的なトッピング。ごぼうのほんのりとした甘さと歯ごたえがうどんに合い、衣の油がつゆに溶けだしてなめらかな舌触りを加えてくれます。
かしわの甘辛い味も加わり、一気につゆまで飲み干してしまいました。九州のうどんの基本をしっかりと守ったおいしい一杯でした。
また、うどんスタンドに併設されているキオスクには同じ中央軒の駅弁「かしわめし」やシュウマイ「焼麦」も売られています。
もともと駅弁屋であり、「かしわめし」は九州の駅弁の代表作、シュウマイはかつて”東の崎陽軒、西の中央軒”とうたわれたほど有名だったといいますから、こちらもおすすめです。
シュウマイも久しぶりに食べてみると、肉から出る特有の匂いが崎陽軒と同様で郷愁を呼び覚ましてくれます。
来年(平成21年)3月に九州新幹線が全線開業すると、この鳥栖はさらに寂しい駅になってしまうかもしれませんが、それでもこのうどんやかしわめしはずっと生き残っていってほしいものです。
途中下車してでも食べていってほしい。
そんな一杯のうどんです。
「中央軒」(佐賀鳥栖駅・うどん/駅弁)
https://tabelog.com/saga/A4101/A410103/41000240/