ぎっしりと詰まった、“肉厚”のメンチカツ「大山特製メンチ」(200円)です。これがもうおいしいのなんのって。
実は九州人にとって、かつてメンチカツという食べ物は存在しないものでした。マンガなどで見て知ってはいたものの、地元で売っている物を見ることはありませんでした。それは王貞治さんが宣伝する「ナボナ」と同じで、幻の存在でした。ナボナの場合、上京してから初めて食べ「なあんだ」という感想になったのは、ほかにもおいしいものがあふれる時代になってしまっていたからでしょうか。
メンチカツも同じで、九州から来た田舎者にとっては「なんでハンバーグにせずにわざわざ衣つけて揚げなきゃならんのだ」という疑問を払拭できるだけのうまい一品にはなかなか出会えませんでした。
ところが、この店のメンチカツはまさに目から鱗でした。ぎっしりと詰まった肉と、本物の肉汁。最近、餃子などでわざわざスープを入れて包んで「あふれ出る肉汁」なんて言っていますが、そんな“やらせ”とは違う本物。幸福感が違います。
この店があるのは上野。上野駅と御徒町の間にある、ガードの両側のごちゃごちゃした一帯です。ガードの西側はアメ横があり、昔は鮭の切り身なんかを売る生鮮食料品の店が並んでいましたが、最近はかなり少なくなりました。反対の東側は飲食店の街。もともと上野はコリアタウンだったこともあり、その名残を感じさせる焼肉屋のほか雑多な店がこれでもかと並んでいます。よくこれだけの店がやっていけるものだと感心します。
その飲食店側の真ん中にあるのがこの「大山」。もともとは栃木で肉の集散地問屋から始まり、産地と消費地の直結を目指して上野に進出。やがて肉問屋直営店としてレストランをこの地に開業します。
そして肉を使った揚げ物などを店頭販売。名物となったメンチカツやコロッケをはじめ、アジフライやイカフライなど魚介類のフライにいたるまで揃え、たくさんの人々が仕事帰りなどに利用しています。
そしてこの店が上野らしいのは、その店頭で買ったばかりのメンチカツやコロッケで酒が飲めること。その飲み物も一緒に売っていて、売り場の対面にある小さなカウンターで立ち飲みができるのです。
ビールも酎ハイも。そして揚げ物以外の居酒屋メニューまで。夕方になるとたくさんの人々が狭いカウンターにひしめき合い、メンチカツにかぶりつきながらビールを飲み干す様子が見られます。うーん、さすが上野ならではの光景です。
「やみつきコロッケ」は60円ながら冷凍食品のコロッケのようなパサパサした感じがなく、芋がしっとり。ミンチもたっぷり入ってて味は濃厚。実家の母が作ったほくほくのコロッケを思い出させてくれました。これで60円は激安です。
一方、本業であるはずのレストランはテイクアウトコーナーの奥。立ち飲みのオヤジをかきわけた先に入り口があります。卸だけあって和牛のサーロインが200gのセットで4,300円とお手頃価格。またランチでは「大山ステーキ定食」が950円というので食べてみました。
まあ、肉はそれなりに硬いけれども味があります。
でもまあ、「メンチ&コロッケ定食」が680円、「牛生姜焼き&唐揚げ定食」が700円、さらには「大山カレー」が520円といったお得感あふれるメニューに比べたらコストパフォーマンスでは明らかに見劣りするかもしれません。
やはりステーキを食べるならそれなりの覚悟が必要だということを学びました。
とにかくこの店はメンチカツやコロッケがおいしい店。テイクアウトで晩のおかずにするもよし、狭いカウンターを譲り合って、生ビール片手に立ち飲みを満喫するもよし、ひとそれぞれの楽しみがあります。
もし上野に行くことがあったら、ちょっと景気づけにメンチ片手に飲んでみてください。楽しくなりますから。ぜひ。
「肉の大山」(上野・洋食)
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131101/13016728/