上の麺は、坦々麺です。
ちょっと坦々麺には見えないのですが、坦々麺です。この店で働く中国人の料理人が作りました。
スープは口に入れた瞬間、酸味が強く感じられ、そのあとで辛さが追っかけてくる感じ。(日本の)坦々麺の定番である芝麻醤(胡麻ペースト)は入っていないようで、辛さと酸味が主な味。しかし食べ進むうちに舌が酸味になじむのでしょうか、けっこうおいしく感じられてくるのです。
麺はちょっと太めの平打ち麺。パスタのリングイネとほぼ同じ感じで食べ応えのある麺です。
もやしとニラを挽き肉とともに炒めた具もいい塩梅でボリューム満点。生のきくらげがいいアクセントになっています。
私たちが普通に思い描く(日本の)坦々麺とはかなり違うものではありますが、これはこれで良しとしたくなるようなユニークな麺でした。
まあ、よく考えてみれば私たちがよく知る坦々麺も故・陳健民氏が戦後の日本で手に入る材料を使って作り上げたいわば“創作”なのですから、細かいことを言うほうがおかしいのかもしれません。
この店のある一帯はかつて「しょんべん横丁」と呼ばれ親しまれてきた飲み屋街。密集した木造の店舗と張りめぐらされた路地がまるで異次元空間のよう。数年前、火事で数軒が焼けるなど、危険な一帯でもあるのですが、なぜかこの“囲まれ感”を求めて多くの人々がいまも訪れます。
この横丁、現在は「思い出横丁」という新しい名前があり、コップにまで印刷してアピールしていますが、多くの客にとってはそんなことどうでもいいのかもしれません。再開発計画も以前からあるようですが、ここだけは変わってほしくない気がします。
一方、天津丼はよくあるタイプ。
天津丼(天津飯)という料理もまた、実は日本にしか存在しない“創作中華”なのですが、餡がよくあるどっぺり甘く酸味がツンとくる餡ではなく、あっさりしたおいしいもの。うまくこなれた一品です。
日本的だったり、本場風だったりと、料理一品一品が様々ではありますが、料理はどれも安く、ちゃんとおいしいものばかり。
一方で、タンメンはオーソドックス。
これは日本人の料理人が作ったからでしょうか。野菜と肉の炒めかたから日本的。同じリングイネのような麺ですが、ゆで加減が柔らかいのもタンメンらしくていいです。
餃子もニンニクのきいたこれもまた日本的なもの。
細かく刻まれた具がピリッとしておいしいのです。
さくっと食べるもよし、友人と一緒に飲むもよし、ひとりカウンターに座って周囲の話に耳を傾け、ときには周囲と仲良くなるのもよし。
「思い出横丁」のグラス片手に餃子でもつまみながら、人情厚いこの横丁ならではの過ごしかたを楽しんでみてください。
「岐阜屋」(新宿西口・中国料理)
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13000757/