この店のピーマンの肉詰めは秀逸です。
たれが不要なほどしっかりと下味がつけられた肉が、炭火によってじっくりと焼かれ、肉汁をたっぷりと含んだまま少ししんなりとしたピーマンと一体化。
しっとりとした焼き加減が絶妙で、これほどの味のピーマンの肉詰めは都内でもほかにないと思える一品です。
この店があるのは新宿思い出横丁。
このサイトにも何度も登場してきた、昔の闇市の風情をそのままに残す”しょんべん横丁”と呼ばれてきた一角です。最近はすっかり外国人観光客のメッカになってしまいました。
そのなかのひとつであり、店に入るには奥まで続くカウンター席と壁の間をかき分けるようにして入る形。2階にも小さな客席がありますが、やはりこうした店は常連が並ぶカウンター席がおすすめです。
唐突ですが、あなたは「旅」ができるひとですか。
それとも「旅行」を楽しむひとですか。
「旅」が「旅行」と違うのは、その土地の人と対等に接し、言葉を交わすこと。そしてその人と同じ目線でその土地を見られるようになること。
この店を楽しめるかどうかは、まさに旅ができるかどうかにかかっているような気がします。耳をそばだてれば、常連たちの身の上話が聞こえてきます。その声の主は星の案内人だったり、謎の芸人だったり、異国の地で頑張る女性だったり。
ちょっとの勇気を出して顔をそちらに向け、うんうん、と頷いてみれば、その瞬間からあなたはその話の構成員になり、店の一部となることができるのです。
そして、おいしい料理と酒が場を盛り上げる手伝いをしてくれることでしょう。
店先の鍋で我々を誘うもつ煮こみは、見込み通りのおいしさ。
ピーマン肉詰めのほかにも、プチトマトをベーコンで巻いたものなど、秀逸な焼鳥の数々。
そして常連さんお勧めのマカロニサラダは甘さ控えめ。真面目の塊です。
ある意味、この店は自分という存在が試される場所なのかもしれません。
ひとつはこの店の見かけと値段の安さから来る先入観を見事に裏切る料理のおいしさをちゃんと理解できるかどうか。
もうひとつはこの店の一員としてふるまえるだけの経験豊かな”旅人”であるかどうか。
お通しがいくらだ、店が狭いだ汚いだと騒ぐような “こんまい人間” には決して来てほしくない店です。
「埼玉屋」(新宿西口・居酒屋)
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13083564/