昼酒の、ほのかな罪悪感と優越感と。
徹夜の仕事で少々朦朧とした頭と足で向かったのは新宿西口のしょんべん横丁。現在は思い出横丁と呼ぶバラックの飲み屋街でした。
この店は正午からやっている居酒屋。
がらんとした店内に入ると、中国語なまりのおばさんが席に案内してくれます。店の中央に幅60㎝程の細長いテーブルが連ねられた場所。案内されたのはひとりいた先客の隣。椅子ふたつほど離れてはいますが、まるで映画「家族ゲーム」のような横並びです。
視線の先にはテレビ。平日の昼下がり、国会中継を見ながら酒を飲むというシュール。なぜ民放のワイドショーではなく、国会中継なのか。先客のもうひと組の夫婦らしき中年ふたりが、画面にちらりと目をやり「民主党が…」と話し始めます。それは昨夜のニュースショーで出たコメントと寸分たがわぬつまらない話。
国会中継が流れる場末の酒場。それはある意味、日本の民主主義社会を凝縮して見ているようです。
この店でうれしいのは鯨。もしかしたらこの漢字が読めない人もいるかもしれませんのでクジラと表記しましょうか。この店、メニューはすごくたくさんあるのですが、クジラのメニューの充実はほかにないほど。クジラの刺身はもちろんのこと、ステーキ、竜田揚げ、クジラカツ、細切り炒め、ハリハリ鍋、そして酢味噌和えまであり、鯨料理専門店などに行かなくても日本の鯨食文化を堪能できます。
懐かしいのは「酢味噌和え」でしょうか。
これは尾羽(おばけ・おばいけ、とも言う)を塩漬けにしたものを湯引きしたもので、白い身と黒い皮のコントラストと使い古したスポンジのような食感。ちょっと酢味噌がかかりすぎていますが、懐かしい食感が楽しめます。
鯨料理だけ楽しむために来ても、じゅうぶん満足できる店といっていいでしょう。鯨ってなに?という若者にもぜひ一度味わってほしいものです。
そのほか、居酒屋のメニューはひととおり揃っていてその数の多さには目移りするほど。
鉄板でジュージュー音を立てながら提供されるピリ辛の「ホルモン炒め」は、大きめに切られたホルモンに臭みもなく、いい味を出しています。野菜ももやしを中心にたっぷりとあって満足感の高い一品。
刺身も、マグロは筋が多い部位ながら値段の割にいいもので、全体に良心が感じられます。
目の前は山手線や中央・総武線がひっきりなしに通る場末感たっぷりの場所で、昼ひなかから酒を飲む快楽。
はまったら抜けられなくなりそうな危険地帯に、ぜひ一度あなたも足を踏み入れてはいかがでしょうか。できれば、仕事のないときに。
いや、仕事中のほうがスリリング?
もちろん、夜もやっていますので。
「鳥園」(新宿西口・居酒屋)
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13100378/