「二郎」を偏愛する慶大生の、身体の半分が豚とモヤシでできてるのだとしたら、早大生の身体の半分はこの店の唐揚げでできていると言っても過言ではないでしょう。
発泡スチロールの容器からあふれんばかりの唐揚げ。まるで得体のしれない生物が触手を伸ばしているかのようにも見えるその姿は、早稲田の学生の主食とも言うべき一品。
衣なんだかダマなんだかわからない圧倒的な膨張力を誇る褐色の物体は、押し包むように鶏肉の姿を隠し、くっつきあってご飯に覆いかぶさっています。味は醤油たっぷりの濃いめ。どうやったら衣にここまで味をしみこませることができるのだろうというほどの濃さで、否応なしにご飯が進みます。
この弁当の名は「ナスカラ」。一面の唐揚げをめくると、これまた油をたっぷり吸ったナスがご飯との間を埋め尽くしています。
唐揚げだけでなく、少しは野菜を摂ってほしいという配慮でしょうが、ここまで油を吸って果たして身体にいいのかどうか、むしろ逆効果なのではないかという懸念をぬぐえないのも事実です。
早稲田大学正門から200mほどの交差点を右、郵便局と同じ建物にあるこの店。
この店はかつて「ほっかほっか亭」の加盟店でした。しかし、当時から学生へのサービス精神のあまり、上のような得体のしれない唐揚げを提供していました。また独自メニューを勝手に創作し、次々と増やしていました。
それが原因で「ほっかほっか亭総本部」と対立したのでしょう。やがてチェーンを脱退し、「わせだの弁当屋」という現在の名前になりました。
「ほっかほっか亭総本部」のほうは、この脱退した店を潰すべく、刺客として目と鼻の先にもう一軒「ほっかほっか亭」を開店します。しかし、潰れたのは刺客のほう。それだけ異常なまでのサービスや独自メニューが学生たちに支持されていたのです。
その独自メニューのひとつが、「前抜き」。
当初、早実の生徒たちが「前抜き」と頼むのを見て、いったい何だろうと思っていたのですが、「前」というのは前菜のこと。のり弁のきんぴらや柴漬けを除き、その代わり唐揚げを1個つけることから「前抜き」。それでいて値段は通常ののり弁と変わらないというサービスメニューです。
写真を見てわかる通り、「ほっかほっか亭」ののり弁より白身魚のフライもちくわも巨大。330円でけっこうな食べ甲斐があります。
もうひとつの代表的な独自メニューが「ギョーカラ」。
揚げ餃子と唐揚げの組み合わせですが、この揚げ餃子の硬いこと。
ヘタすると破片で口の中を傷つけそうなほどです。これを4つも食べると、満腹以前に顎が痛くなってしまいます。
やっぱり衣だかダマだかわからない唐揚げとあわせて、超ボリューミーな一品と言えるでしょう。
実はこの店の唐揚げは、私にとっても青春の味。ときどき無性に懐かしくなっては店に行き、衣だかダマだかわからない唐揚げを頬張り思い出に浸ります。そしてその重さに胸やけし、思いっきり後悔するのですが、やっぱりしばらくたつと無性に…。
「三つ子の魂百まで」と言いますが、この「わせだの弁当屋」の、衣だかダマだかわからない唐揚げは永遠であってほしいものです。
「わせだの弁当屋」
https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130504/13000054/