関東と関西のうなぎの違い。
関西は腹開きで開いたらそのまま焼くのに対し、関東は背開きで一度蒸してから焼く。まあ、その程度のことはいまやみんな知っていますよね。
ところがこの店はその関東風の「蒸す」という作業を、圧力鍋でやっています。圧力鍋で煮るとニンジンやジャガイモがほくほくになるのはご存知ですよね? これを鰻でやると身がふわっふわのとろっとろ。口に含むと、舌の上でとろけるようです。
ここは都営浅草線の本所吾妻橋。駅を降りて東にすぐの場所にある小さな店。基本的に予約は不可。店に行って人数と名前を小さな紙に書き、店の奥にある小さな座敷でビールでも飲みながら待つか、女将さんに指定された時間に出直してくるかのふた通りです。
この日、久しぶりの訪問でしたが店に着いたのは11時ちょっとすぎ。すでに開店直後の第一陣が店に入っていて1席を除いて満席。私たちは2人だったので奥の座敷で待ちます。座敷は階段を5~6段上る中二階になっていて、4畳半ほどの広さ。ちゃぶ台が2つあってそれぞれ4人座れるので、ここで鰻を食わせてくれてもいいじゃないかと思いますが、お年を召した夫婦にはここまで持っていくのが大変なのでしょう。
ビールを頼んでも持ってきてくれるのは階段を上がった場所まで。客が取りに行かねばなりません。ビールは中瓶が600円ですが、おまけにヒレを巻いて焼いたものなどがつくため、むしろお得な感じがします。
第一陣の客が店を出たのが40分すぎ。ビール3本目が空になりそうなとき、カウンター席に通され、さらに待つこと20分ほど。ご主人は待ってる我々を気にして、いろいろと話しかけてきます。喜ばせたい、という気持ちが伝わってきて場が和みます。
そして12時過ぎてやっと「特上」(4,000円)が登場。ちょうどお昼過ぎということでむしろいい時間になっていました。
ちょうどいい飴色に光るうなぎの身は、箸で何の抵抗もなく切れます。ご飯はかなり少なめ。サイコロ状に切り取って口に運ぶと、まず醤油の味と香りが立ち上がってきます。そして追いかけるように甘みとコクが。それらを感じているうちに舌の上のうなぎはとろけていく感じ。不思議な感覚です。
ふわっふわのとろっとろですから、噛んでいるという感覚はあまりなく、米も非常に粒が小さくあまり粘り気のない品種のようですから、全体にさらっとした感じ。その味をいとおしむように食べ続けていると、幸福感が満ち溢れてきます。
うなぎが大きいわけでもなく、ご飯も多いわけではないので、とても満腹になるはずはないのですが、幸福感で満腹になるような不思議な感覚。この幸福感だけでも4,000円は安いと思ってしまいます。
近年の稚魚の不漁でうなぎが高騰し、なかなか食べる機会がなくなってしまいました。だからこそおいしいうなぎを食べたいもの。この店は、絶対に行く価値のある店として強くお勧めします。
「鰻禅」(本所吾妻橋・うなぎ)
https://tabelog.com/tokyo/A1312/A131203/13058979/