今年も、やっとこの一品に出会える季節になりました。
牡蠣そば。
西早稲田にある、知られざる蕎麦の名店「浅野屋」の、秋から翌年の春先までの季節限定メニューです。
温かい蕎麦の上に、ぷりっぷりの牡蠣が4個。
もう岩牡蠣と見まごうほど、と言ったら大げさかもしれませんがとにかくはち切れんばかりの大きさ。これで1,000円でいいの?と思わず言ってしまいそうになります。
そして、宗田鰹などを使ったもともと濃い味のつゆに牡蠣の濃厚なうま味が溶け出して加わり、つゆ全体がうま味の塊のようになっています。
そして、この滋味あふれるつゆを全身にしっかり含んだ蕎麦一本一本が、我々の舌と喉を喜ばせてくれます。温かい蕎麦というものは、やはりこの店のようにのび気味くらいに感じられるくらいがうまいもの。プラス150円で、特定産地の蕎麦を使った手打ち(限定20)にも変更できますが、温かい蕎麦ですから普通の蕎麦でじゅうぶんでしょう。至福の一品です。
高田馬場駅から東に徒歩8分。明治通りと早稲田通りが交差する「馬場口(ばばくち)」の交差点近くの路地にひっそりとたたずむこの店。「知られざる蕎麦の名店」を見つけてしまった、という感じでしょうか。
蕎麦はとても細いながらしっかりとした腰を持ち、その弾力は歯を押し戻す力として、また喉を通りすぎていくときの踊るような反応として食べる喜びを強く意識させてくれます。
また、つゆを蕎麦にからませて口に含んだ瞬間、椎茸が入っているのではないかと思わせるコクと香りは質の高いみりんと宗田鰹のおかげでしょうか。かすかな、しかししっかりとした甘味が蕎麦自身のほのかな甘味と相まって全体の味をふくよかにしてくれる、そんな感じの素晴らしいつゆです。
また酒肴も手頃な価格で数多く揃っていて、夜もまた楽しめるという点でも非常にすぐれた蕎麦屋です。(ただグラスのビールが一杯800円と高いことだけが残念ではありますが。)
以前は同じ新宿区の下落合に店があったのが、道路拡張に伴いこの地に移転してきたとのこと。現在はちょっと奥まった場所でひっそりと、いかにも知られざる名店といった雰囲気を漂わせています。
この店に行くなら、できれば夜。
酒肴は先ほども述べたように、手頃な価格のものが多種多様。また酒も種類は少ないものの、主人が自信を持って選んだ良い酒が揃っています。
酒肴では「砂肝香り焼き」は甘辛いたれがからめられていておいしく、これで400円とは信じられません。
また、季節ものの「筍のピクルス」はほのかな酸味が意外にも筍の風味を増し、絶妙なバランスを見せてくれます。そもそも筍をピクルスにしようという発想の非凡さに感服してしまいます。
そして締めはもちろんせいろで。
ここはそうした粋な江戸の飲み方ができる店であり、きっと幸せなひとときが過ごせることでしょう。
良心的な価格でありながら、誇り高き味の蕎麦の店。
蕎麦好きならば、まず一度は訪れてみてください。
いずれ東京の蕎麦を語るには欠かせない店になる、と私は信じていますので。
「浅野屋」(西早稲田・蕎麦)
https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130504/13037981/