仕事を通じて親しくなったアイヌの人々の、ある姉妹の会話をそばで聞いていたことがあります。
「ウチの子はちっちゃいときから鮭の皮が大好きでね。自分がアイヌだって教えてないときから好きだったから、やっぱりアイヌの血は強いんだよねぇ」
かつて北海道や樺太の豊かな大地で、山や川や熊を神として崇め、鮭をとりながら暮らしてきた民族・アイヌ。時代が移り、場所が変わってもなお民族の嗜好は脈々と受け継がれていくものなのでしょう。
アイヌにとっての鮭を、九州人に置き換えるならそれは「鳥皮」でしょうか。
九州における鳥皮は、もうひとつの雄・豚バラとともにそれ抜きではけっして焼鳥を語れない存在なのです。
この店は鳥皮にこだわり、異常なまでの手間をかけて別の料理と見紛うほどの一品に昇華させています。
まず見た目からして異様。普通の鳥皮は、小さな短冊状に切ったものを何枚も折り重ねるようにして串に刺していくものですが、この店では細く切った鳥皮を串に幾重にも巻き付けて固め、それを6日間にわたって7回から8回もあぶっていくというもの。
そうすることによって皮の脂肪分の多くが流れ落ち、残ったたんぱく質やコラーゲンなどに甘辛いたれがしみこみ、一種独特の味わいになっています。
鳥皮と言われれば鳥皮ですし、そうでないと言われれば別の一品かなと思える、そんな不思議なメニューです。
脂が落ちているためにくどくなく、パクパクと食べられることもあって10本単位での注文が普通とのこと。たしかに他のテーブルを見ていると、10本20本単位で鳥皮が運ばれていきます。やはり九州人にとっての鳥皮は、アイヌの人々にとっての鮭のような存在なのでしょう。
また、ほかのほとんどの串ものも税込みで1本95円。
最近は東京周辺でも見かけるようになりましたが、かつては九州にしかなかった「豚バラ」も、玉ねぎを間に従える九州正統派スタイルで出てきます。
“豚バラがなぜ焼鳥屋に?”なんて、無粋な質問はやめましょう。なにしろ同じ九州でも久留米には「ダルム」「センポコ」などの名で馬の内臓肉が多数焼鳥屋のメニューにラインナップされているという驚愕の事実があるのですから。
福岡の都心・天神から西鉄でひとつめの薬院という駅から歩いて5分ほど。住宅街にある小さな店ですが、一品一品が安いこともあって、どんどん頼んでいける気軽さがあります。(なにしろ焼酎お湯割りが210円)
福岡の、一般の人々が日頃愛するおいしい焼鳥を食べてみるにはとてもおすすめできる店です。福岡にちょっと長く滞在するときにはぜひ。
「かわ屋」(福岡薬院・焼鳥)
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400104/40005228/