「あの、小笠原のことを”絶海の孤島”って呼んでもいいでしょうか?」
小笠原村の役場のひとに、こう尋ねたことがあります。
小笠原諸島に行ったことのある人ならばわかると思うのですが、
この島を表現するのに「絶海の孤島」という言葉ほどぴったりと
来る言葉はありません。
なにしろ周囲はすべて太平洋。
都心から南に1,000kmも離れ、伊豆七島の南端・八丈島からでも
700kmも離れてぽつんと浮かんでいます。
しかもこの島は誕生してから現在まで、一度たりともほかの陸地と
地続きになったことがありません。そのため生物は独自の進化をし、
“東洋のガラパゴス”と言われるほど貴重な生物が数多く暮らして
います。
「絶海の孤島」とはまさにこの島 (正確には島々ですが)に使わずしてどこで使う、
というほどぴったりの言葉だと私は確信しています。
ところがあるとき、”我こそは言葉の権威”だと思っている連中から、
“小笠原に絶海の孤島という表現はいかがなものか”とクレームが
つきました。
簡単に言うと「”絶海の孤島”は差別的な表現であり、
小笠原の人々が嫌がる」と言うのですが、本来”絶海の孤島”は
島のありようを描写した言葉であり、差別的要素など持っていません。
しかも彼らに「小笠原の人々が嫌がるって、実際に聞いたの?」
と聞くと、「聞いてないけど、きっとそう思うはず」というお粗末さ。
それでは「言葉狩り」そのものです。
そこで実際に尋ねてみよう、ということで冒頭の質問になったわけです。
「あの、私は実際に何度も島を訪れてみて、”絶海の孤島”こそが
小笠原を表現するのに最適な言葉だと思うのですが…。」
役場のひとは、しばらくの沈黙のあと、こう話しました。
「う~ん、絶海の孤島って、青ヶ島のような島のことを
言うんじゃないでしょうかねぇ」
…それって、目くそ鼻くそでは。
思わずそう口をついて出てきそうになりました。
(つづく)