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才能は枯渇する。

2013.09.13

” 引退するから賞をくれ “

そう言われても、この内容ではいくらなんでも
賞はあげられなかった、ということでしょう。

宮崎駿監督の「風立ちぬ」。

その隠しテーマは、まさに ” 才能は枯渇する ” でした。

劇中、「創造的才能は10年間」といった言葉が繰り返し出てきます。

それは表面的には、主人公の堀越次郎が特異な才能を
発揮した10年間が戦争の時代であり、彼が創り上げた飛行機が
あの、翼が印象的な「九試単座戦闘機」やゼロ戦(零式艦上戦闘機)
という兵器であったということを、不幸なこととして描いています。

つまり、ただ ” 美しい飛行機 ” を目指した天才が、戦争の時代に
生まれてしまったがゆえに殺人の道具を作らざるを得なかった。
しかしそれでも彼は懸命に生き、” 美しい飛行機 ” を歴史に残したと。

だから、キャッチフレーズが「生きねば。」

しかし一方で、「創造的才能は10年間」という言葉は、まさに
宮崎駿自身に向けられた刃だったのではないでしょうか。

今回、舞台をファンタジーから現実に置き換えたにも関わらず、
内容はあまりにも幼稚でした。

彼の映画は昔からそうですが、美しい風景とちょっと幻想的な
シーンを積み重ねればそれで物語になると思っています。

ストーリーテリングが稚拙で、すべてのシークエンスが尻切れトンボ。
途中は退屈なほどカットを重ねるにも関わらず、肝心の内容が
物足りないまま次の話になってしまうため、観る者は置いてきぼりを
喰らいます。かといってのちに伏線が張られているわけでもない。

それでもまあ、これまでの宮崎駿ならバケモノがたくさん出てくれば
なんとか繕うことはできたかもしれません。しかし今回出てくるのは
人間だけですからその手は使えず、ストーリーテリングの稚拙さ
だけが印象に残る形になってしまいました。

また、宮崎駿は激しい恋愛をしたことがないのではないかと
強く感じさせられました。

久しぶりの再会を果たして紙飛行機で遊び、最後にちゅーをすれば
それで恋愛が成就するなんて、いまどきの中学生ですら失笑です。
人間の心の機微が、全編どこにも見当たらないのです。
よく言えば、心はいまも少年のままなのでしょうか。

久石譲の音楽もまた、” 才能の枯渇 ” を如実に物語っていました。

先の「崖の上のポニョ」で、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を
完全にパクッた音楽が出てきたときはひっくり返りましたが、
今回もドイツでのシーンで名曲のパクりでお茶を濁していますし、
印象的な音楽はひとつもありませんでした。

まさにひとつの時代、ひとりの才能が終わったな、という感じです。

実は、今回の宮崎駿の引退表明に先立って、スタジオジブリでは
興味深い動きがありました。

「研修生募集見送りのお知らせ」 (2013年7月9日)

詳しくはリンク先を見てもらえればわかりますが、今年9月と来年4月に
入社を予定していた研修生の募集を急遽、見送るというのです。

しかも「この件に関してのお問合わせはいっさいお答えできません」
との頑なさ。

さては宮崎駿の引退を見越して、経営の先行きが不安になって
きたかとゲスの勘繰りをしたくなってしまうタイミングでした。
(あくまでたまたまのことでしょうが)

クリエイティブな仕事をする者はみな、才能の枯渇に絶えず
怯え続けています。

それはいつ来るのかわかりません。もしかしたら明日来るのかも
しれない。いや、もう来ているのかもしれない。

その恐怖がある者をがむしゃらな創作活動に駆り立て、
またある者を創作とは離れた場所への逃亡に駆り立てるのです。

才能はいつか枯渇する。

その厳然たる事実を痛感し、引き際の大切さを考えさせられた
一日でした。

この文章は「とっておき!!のねごと。」からのものです。
http://www.totteoki.jp/negoto/

みんみん(♂)とっておき!!支配人

福岡県生まれの九州男児。中学高校とブラスバンドに所属し、高校のブラスの先輩がタモリさんというのが数少ない自慢です。メディア関係の企業に就職し、転勤族だったため各地のおいしいお店を探して食べ歩きを始めたのがこのウェブサイトの原点。現在は、映像関係の会社を営んでいます。

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