なんといっても「飢る噛む!(うえるかむ)」。
その衝撃的な看板は、見る者の目を釘付けにします。
野方・沼袋焼肉激戦区の雄としてその存在だけは知っていたのですが、わざわざ沼袋まで行く勇気ときっかけがなかったところ、テレ東「孤独のグルメ」で取り上げられ人気爆発。そこでようやく行くことができました。
もともと西武新宿線でも存在の薄い沼袋。
しかし降りてみると意外にも駅周辺に店が多く、イメージを裏切る意外な顔を持った街です。
とはいえ中野区。駅から歩いて1分もすると住宅地。心細くなるなか、Google Mapsを頼りに歩く我々を迎えたのは、普通の家がひしめく場所に燦々と輝く「飢る噛む!」の文字でした。
店内は4人掛けのテーブルが3つ縦に並び、その奥に10人ほどが座れる座敷が。
噂通りごみ袋が渡され、上着や荷物を臭いから守るように指示されます。内装は簡素で35年の歴史を色濃く感じさせるもの。しかしテーブルをはじめどこもべたべたする場所はありませんでしたから、手入れが行き届いています。
最初に頼んだのはこの店の名物「わさびカルビ」と「丸」と「三角」。テレビで予習したそのまんまです。
「わさびカルビ」は表面を軽くあぶり、上におろした生わさびを乗せて醤油をつけて食べるのですが、これが驚きのうまさ。
とろけるようなサシが入ったほぼ生の肉と甘いわさび、それに薄くて甘い醤油が三位一体となって調和し、まるで刺身。それもまぐろのトロか上質の鯨肉のよう。一同、ほぼ同時に感嘆の声を上げました。
「三角」もまた軽くあぶったものにレモンを絞るだけ。
「丸」はじっくりと焼いてレモンを絞る、と肉によって焼き方も最適なものが指示されます。
「丸」はタンの代わりとのこと。
同級の牛のタンでは高すぎて提供できないということで編み出されたいわば代用品ですが、たしかに食感はタンのよう。しかし肉の味もしっかりしていてこれはこれでいいのです。
そのほか、”蒸すように焼く”オススメカルビや上ミノ、豚の「東京X(エックス)」、チゲにキムチとどれもおいしく食べたあと、シメに選んだのは「たまごかけごはん」。
いろんな地方のいろんな焼肉の店に行きましたが、シメにたまごかけごはんが用意されている店はさすがに初めて。
なんの変哲もないごはんに「わさびカルビ」でも使った醤油を先にかけ、ちょっと赤っぽい黄身の卵を割って乗せるだけ。これに薬味としてついた塩納豆とともに食べるのですが、これがもうなぜこんなにうまいのか、と叫びたくなるほどの美味なのです。
焼肉の脂でいっぱいになった口のなかに、卵の味がちょうど合うのか、タレの濃い味の後だからさわやかなのか。秘密は解けませんでしたが、とにかく新鮮な体験としてぜひ味わってほしい、焼肉のシメです。
また、この店はご主人の気さくでサービス精神旺盛な人柄も大きな、いや最大と言っていいほどの魅力。
常連客からプレゼントされた「I Love 2Q(ニク)」のシャツをいつも身に着け、テーブルからテーブルへと客との話に忙しいご主人。
特製のお酒を飲ませてくれたり、頼んでない(はずの)ホルモン皿が来たり、帰りに挨拶をすると梅干しを分けてくれたりと、”おいしいものを食べてほしい” “楽しんでいってほしい”と思うからこそのもてなしが私たちの心に響いてきます。
いつも混んでいて、焼肉屋にしては珍しく時間で切られることが当たり前ですが、それでもぜひ一度は必ず行ってみてほしいお勧めの店です。
「平和苑」(沼袋・焼肉)
https://tabelog.com/tokyo/A1321/A132104/13006939/