東急百貨店東横店東館。
かつて日本史上最大の違法建築物と呼ばれた
この建物が、まもなく取り壊され姿を消します。
何が違法だったのか。
この建物、実は「川の上」に建っているのです。
いまとなってはほとんど川の姿を見ることが
できませんが、渋谷はその名のとおり谷であり、
その最も低い部分には川が流れています。
流れるのは渋谷川と宇田川。
渋谷川は新宿御苑にその源流を発し、原宿の
「キャットストリート」と呼ばれる路地の下を流れ、
明治通りをくぐって東急東横店までたどり着きます。
また、宇田川は代々木上原のあたりから南東方向に
向かって暗渠(あんきょ)となって流れ、三角交番から
井の頭通りの下になって西武百貨店A館とB館の間を抜け、
JR山手線・埼京線をくぐって渋谷川に合流するのです。
なぜ、川の上のデパートが建っているのか。
そこには東急グループの総帥であり、その強引な
企業買収の手腕から「強盗慶太」の異名を誇った
五島慶太の存在がありました。
その”強盗慶太”が、関東で初めての鉄道ターミナル
デパートとして開業した「東横百貨店」がこの東急百貨店
東横店東館だったです。
この建物が川の上に建った経緯を、猪瀬直樹がかつて
週刊誌の連載「ニュースの考現学」に書いていますので
それを引用しましょう。
五島は資本主義は弱肉強食だと信じていた。
自分に有利ならばなんでもやった。
渋谷の東横百貨店(現、東急百貨店東横店東館)は
もともとは川が流れていたところだ。
橋の「幅員拡張願い」を当局に出した。承認を得て幅員
拡張工事を実施した。工事が終わるとその場所をバスの
折り返し場に使用したいと申し出る。許可されると、では
雨天の場合に利用者を保護しなければと迫り、屋根の
建築を申請する。どうせなら屋根の上に食堂や売店を
設置すれば利用者は待ち時間に買い物ができるでは
ないか。これで二階建てが決まった。地震がきたらどうする、
鉄筋コンクリート造りなら大丈夫だ。鉄筋なら二階建てよりも
五階建てでも安全ではないか。既成事実の積み重ねは
とどまるところをしらない。
(猪瀬直樹著 週刊文春「ニュースの考現学」より 2005年4月14日号)
つまり、”強盗慶太”は官僚に対し次々と要求を持ち出しては
ゴリ押し、ゴネ得でこの建物を川の上に建てたというのです。
そして、東急東横店にはもうひとつ “強盗慶太” らしい
部分がありました。
それは、上の写真で赤い線で囲んだ部分。
ここは東館と西館を結ぶ「連絡通路」で、JR山手線と埼京線を
またいでいます。
ところが実際にこの部分に入ってみると、そこは「売り場」として
使われています。いまでこそ規制緩和で合法化されましたが
それまでは違法とされる行為です。
通路が売り場になるために、いったいどんな理屈がまかり通って
いたのかは謎ですが、そこにはやはり五島慶太の姿があった
ことは間違いないようです。
川の上に建物を建て、連絡通路を勝手に売り場にしてしまう
“強盗慶太”の剛腕ぶり、恐るべしです。
この文章は「とっておき!!のねごと。」からのものです。
http://www.totteoki.jp/negoto/