ベートーヴェンはやっぱり「古典」だったのか。
今年のN響「第九」を聴いて、最も印象に残ったのは
まさにその音のシンプルさゆえに見えてきた
様式の美しさでした。
ベートーヴェンの書いた楽譜に忠実にあろうとした
ロジャー・ノリントン指揮の「第九」の最大の特徴は、
ヴァイオリンをはじめとする弦のヴィブラートを
すべて排除したこと。
そもそも、弦楽器はひとりずつの出せる音量が
管楽器などに劣るがゆえに大人数になったのですが、
ヴィブラートをかけることでさらに大きく聴かせて
きた部分がありました。しかしそれは一方で、
和音の純粋さを犠牲にしてきたのではないかと。
ノリントンの試みはまさに、そこを「純化」して
音程の”ぶれ”を無くし、ベートーヴェンの目指した
音楽を時代を超えて忠実に再現しようとしたのです。
その結果、弦楽器全体の存在感が減った代わりに、
和音そのものがくっきりと浮かび上がることに
つながりました。
また、楽譜のテンポの指示にも忠実であろうと
したことによって、第三楽章はこれまでにない
スピードに。
カラヤンの「第九」が74分であったことが、
CD・コンパクトディスクの容量を決めたことは
あまりに有名ですが、この第三楽章が猛烈な
スピードだったことで、きのうのノリントンの
「第九」はなんと65分で終了することになります。
しかしこれによって全体は引き締まり、第一・
第二ヴァイオリンからヴィオラ、チェロへの
ピチカートでの”会話”がくっきり浮かび上がるなど
いままでにない素敵な第三楽章となりました。
のちの「ロマン派」の情緒的要素を排除し、
「古典」に徹したがゆえの結果でしたが、
目の覚めるような美しい演奏であったことは
間違いありません。
これまでにない、斬新な「第九」。
いくつかノリントンの”間”の取りかたについていけず、
バラバラになってしまう部分がN響側にあったのも
事実ではありますが、ぜひ一度聴く価値がある
「第九」だと思います。
年末にNHK Eテレ(教育)で放送がありますから、
興味があったらぜひ観て聴いてください。
この文章は「とっておき!!のねごと。」からのものです。
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