左:Deuterium 001氏撮影 右:Sungwon Baik氏撮影/VOA提供
ちょっと古くなってしまいましたが、12月6日の
韓国紙「中央日報」日本語版に掲載された
「【時論】北朝鮮のミサイルは羅老号とは違う」は
なかなか興味深いものがありました。(以下青字は同サイトから引用)
「統合進歩党が北朝鮮のミサイル発射計画のニュースが伝えられると
『羅老(ナロ)号と同じだ』という立場を出した。韓国の人なのか
北朝鮮の人なのか区別ができないほどあきれる。」
との書き出しで始まる文章は、国際政治学を専門とする
キム・ギョンミン漢陽大教授が寄稿したもの。
これは、韓国の左翼政党である統合進歩党が、北朝鮮の”ミサイル”
発射について、”これは宇宙開発の一環であり韓国が開発中の
ロケット「羅老号」と同じであって問題はない” とする立場を表明した
ことに対しての厳しい批判を始めようというのです。
キム教授は、北朝鮮の”ミサイル”を韓国のロケットと
同列に論じるなどもってのほかとばかりに論じはじめます。
「北朝鮮が人工衛星打ち上げ用ロケットだといくら強弁しても
2つの観点からミサイルであることは明らかだ。まず人工衛星
運用能力がない北朝鮮だ。人工衛星を打ち上げるというのに
北朝鮮の人工衛星は重さが50~100キログラム程度で
実用的にはまったく使い道がない。人工衛星を打ち上げると
意地を張ってもこれを運用する経済力がない北朝鮮だ。」
たしかに、4月に失敗した前回の打ち上げの際に北朝鮮が公開した
人工衛星は、いったいいつの時代かというほど古ぼけたものでした。
まあ機能があったとしても、自分の存在を知らしめるために
電波を発信するくらいが関の山。大陸間弾道ミサイルであることを
隠すためのハリボテだったという説もあながちハズレではなかったの
かもしれません。
その上でキム教授は、現在韓国が運用する衛星がいかに立派で
どれほど実用的かを主張します。
「韓国は人工衛星「アリラン」と「千里眼」などを運用している。
これらは重さ1トンを超える人工衛星だ。天気予報ができる
各種情報を得たり、地球資源の観測と北朝鮮が何をしているかを
見ることができる。」
韓国が所有・運用する衛星は地球観測衛星「アリラン」や気象衛星
「千里眼」など。人工衛星を保有・運用するには莫大なコストが
かかりますから、韓国にできても北朝鮮にはできまい、という主張。
つまり、宇宙の平和利用など北朝鮮にできるはずがない、と。
ところが…。
「韓国はまだ独自に人工衛星を打ち上げられるロケットがなく、
巨額を支払ってフランスや日本に打ち上げを頼んでいる。
役に立つ実用衛星なのでお金を払ってそのようにしているのだ。」
そう、韓国は打ち上げを諸外国に頼んでいます。
それは、自前のロケットをまだ持っていないから。
去年5月に打ち上げた「アリラン3号」は、日本のH-IIAロケットで
宇宙に運ばれました。
そのほかの衛星もすべてフランスやロシアなどに委託しています。
つまり衛星を所有(購入)・運用する経済力はあっても打ち上げる能力、
宇宙技術を韓国は持っていないのです。
それでは一流国とは言えない—。
韓国は自国のロケットを所有しようと躍起になってきました。
それが今回、北朝鮮の”ミサイル”との比較対象になっている
韓国が威信をかけて開発中のロケット「羅老号」なのです。
しかしキム教授は、羅老号についてこう解説をします。
「羅老号に載せられる人工衛星は重さ100キログラムで
科学衛星だ。科学実験をする小さな衛星で、韓国型ロケットを
開発するための前段階として価値があるもので、実用性は
ほとんどない。」
キム教授はとっても正直な人なのでしょうか。
北朝鮮の”ミサイル”と韓国のロケットがいかに違うものであるかを
熱弁していたはずが、いつの間にか両者は技術的に同レベル
だという現実をさらしてしまっているのです。
少々情けなさ炸裂、といった感じでしょうか…。
続けてキム教授は、あらためてこう論じています。
貧しい北朝鮮が実用衛星でもない科学衛星を巨額をかけて
打ち上げる理由はない。(略) 北朝鮮が言うロケットはミサイルで
あるのは明らかだ。
結局、北朝鮮は貧しいから宇宙の平和利用などするカネはない、
だからミサイルなんだという主張で話は発展しないまま。
宇宙技術としてみると、地球低軌道に200キログラムの人工衛星を
打ち上げられれば大陸間弾道ミサイル(ICBM)能力を保有したと
判断できる。(略)
韓国が北朝鮮の大量殺傷兵器であるミサイルと核兵器の脅威を
防ぐ最も効果的な方法は、国際社会と力を合わせて北朝鮮を
圧迫することだ。北朝鮮のミサイル発射が韓国の大統領選挙に
影響を及ぼしてはならない。
つまり”ミサイル”の脅威が、北朝鮮に対して融和的な態度を招き、
左翼政党の大統領の誕生につながるようなことになってはならない
という主張だったということです。
なんか、北の”ミサイル”と南のロケットの違いを論じる必要が
あったのかどうか謎のまま終わってしまいました。
ところで羅老号ですが、これまでは1号機、2号機を打ち上げましたが
ともに失敗しています。
3号機も去年(2012年)打ち上げる予定でしたが、トラブル続きで
何度も延期、結局12月にも発射できず。
そうこうしている間に北朝鮮は人工衛星の軌道投入に成功。
韓国は同じ朝鮮民族として、宇宙開発競争で先を越されてしまい
ました。
さて問題は、今年に延期された羅老号3号機の打ち上げです。
より大きな地図で 韓国ロケット羅老号の予定航路 を表示
この地図は、羅老号の打ち上げ後に予定される軌道です。
九州の西の東シナ海を越え、奄美諸島と沖縄本島の間、
徳之島の上空付近を抜けていくルート。
途中の炎のような印は、前回2010年6月に打ち上げに
失敗した「羅老2号」の残骸が落下した地点です。
もし3号も失敗し、残骸が予定外の場所に落下する
ようなことがあれば、日本にとって危険です。
去年12月、北朝鮮の”ミサイル”発射予告を受け、防衛大臣は
自衛隊に対し破壊措置命令を出しました。イージス艦3隻が出動、
沖縄や東京には迎撃ミサイルパトリオットが配備されました。
その理由は、
「北朝鮮の”ミサイル”が打ち上げに失敗し、その破片などが
落ちてきた場合に備える」というものでした。
ならば、羅老号には?
キム教授の寄稿で明らかになったように、北朝鮮と韓国の
宇宙技術のレベルはどっこいどっこい。
しかも「羅老号」はこれまで2回打ち上げて2回とも失敗。
成功率はゼロ。3号機もトラブル続出で延期続き。
迎撃ミサイルを配備すべきだと思うのですが…。
この文章は「とっておき!!のねごと。」からのものです。
http://www.totteoki.jp/negoto/