高田馬場は「リトル・ヤンゴン」と呼ばれます。
隣のコリアタウン・新大久保一帯のような集積度はありませんが、ミャンマー(旧称ビルマ)の人々がこの街の周辺に数多く住み、ミャンマー料理店や雑貨・食料品店が多く点在することからこう呼ばれるようになりました。
しかし、同じミャンマーと言っても地方や民族は様々。高田馬場のミャンマー料理店7、8店でも、店により全然違う料理が出てきたりしてびっくりします。
なかでもこの店はカチン族という、ミャンマー北部の山岳地帯に住む少数民族の郷土料理の店。カチン族の夫婦が営んでいます。
カチン族が住むのはミャンマーのカチン州と、隣接する中国雲南省の一帯。この地域は緯度は低いのですが、高度も高いため日本と似た気候だそうで、タケノコや山菜など日本と同じ食材を使うのがカチン料理の特徴となっています。
一方で、スパイスやハーブを多用し、辛さが強いのは雲南省の影響と言われます。今回まず最初に注文した料理は「カチン アメーター シンコー チェッ」という、牛肉を細かく切り、様々なハーブとスパイスを入れて焼いたもので、代表的なカチン料理のひとつ。
最初、見た目こそ真っ黒焦げに見えて抵抗がありますが焦げているわけではなく、食べてみるとしっかりと火の通った牛肉の味がします。ラオスの郷土料理である「ラープ」に近い印象です。
しかしラオスで食べたラープの味付けは主に塩で、かなり塩辛いのに対し、この一品は塩のほかに様々なスパイスが加わっていて奥深い印象。とくに印象的なのは花椒(山椒)のしびれるような辛さ。中国でいういわゆる「麻」の味です。
ランチではこのメインにサラダ、きくらげと卵の炒め、野沢菜のようなカブ科の漬物などがついてきます。
ミャンマー料理では、山盛りのごはんがごちそうを意味するようで、どこもてんこ盛りの白米がついてくるのですが、メインの牛肉をごはんに乗せて食べればちょうどいい塩梅で食べられます。
そして2回目に注文したのは「ダンパッウ」。
鶏の脚を一本まるごとスパイシーに煮込んだいわばカレーで、まあこれはカチン独自の料理ではなく「ミンガラバー」にもあるミャンマー料理を代表する一品。
鶏は崩れんばかりに柔らかく煮込まれ、ほかの具もとろっとおいしく煮込まれています。黄色く炒められたごはんはちょっとぼそっとした感じではありますが、カレーにはぴったりです。
不思議なのは、カレーがそんなに辛くないこと。
なのに、サラダのドレッシングが異常に辛いこと。カチンの料理は基本的に辛いということですが、本来辛くあるはずの料理があまり辛くなくて、サラダを異常に辛く味付けしてしまうところに、カチンの人々の味覚の独自性・特殊性があるのかもしれません。
軍事政権の支配が続くミャンマーでは、少数民族に対する迫害が続いているといい、多くの人々が国を捨て難民となっています。高田馬場に集うミャンマーの人々も多くがそうした難民だといいます。
土日の夜は多くのカチン族が集い、カラオケ大会になってしまうこともあるようですが、ランチと、金曜を含む平日の夜ならばいたって静か。私たちも落ち着いて食事ができます。
この店だけのオリジナル「カチン鍋」は、寒い日の宴会にぴったり。
日本全国でもこの店ともう一軒だけという、非常に珍しい”激レア”のカチン料理。
日本と同じ食材を使いながら、ここまでエキゾチックな料理が作れるのか、という驚き満載の「食の冒険」も存分に堪能できます。
ぜひ一度、試してみてください。忘れられない貴重な体験となるはずです。
「マリカ」(高田馬場・ミャンマー料理)
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