オヤジ世代には懐かしいオバイケ。別名オバケです。
鯨の尾びれの部分のことで、これを塩漬けにしたあと薄く切って熱湯をかけてスポン状にし、冷水に晒して酢味噌をかけています。
かつて九州・山口地方ではごく普通に食卓に上った料理であり、関東でも千葉・房総半島の南にある白間津という集落では4年に1回開かれる大きなお祭りで、神様役の少年2人に供されるご馳走にこのオバイケの酢味噌和えが入っていたりと、かつては我々の暮らしの中に深く浸透していました。
商業捕鯨モラトリアム(一時停止)によって私たちの生活から遠ざかってしまった鯨肉。
その文化を残し、身近に感じてもらおうというのがここ築地場外の「登美粋」です。
間口こそ一間(1.8m)ほどしかありませんが、すぐ横の通路を入っていくとテーブル3卓にカウンターがある半オープンエア気分の不思議な空間もあり、ゆったりと食べることができます。
この店の名物は、鯨の竜田揚げと鯨カツ。
竜田揚げは繊維に沿って細かくちぎったものに下味をつけて衣をまぶして揚げたもので、ひとつひとつが持ちやすく、ビールのお伴にぴったり。
一方、鯨カツは非常に薄く切った鯨肉に串を刺し、パン粉を綺麗にまぶして揚げたもの。
歯触りが良く“二度づけ禁止”のソースに浸して食べれば、これもビールのお伴として最高です。
鯨の仲卸が本業だと言うだけあって、ありとあらゆる鯨の料理が提供される、と言いたいところですが、現在は「鯨塩煮込」などが提供できないとのこと。
どうやらこれは去年の国際司法裁判所での敗訴で調査捕鯨の停止を余儀なくされたことの影響。
一部メニューに適した種類の鯨が入荷しなくなったためのようです。
これまで縮小均衡を続けながらも、伝統的な沿岸捕鯨と調査捕鯨でどうにかしのいできた日本の鯨食文化の危機が迫ってきていることを感じます。
とはいえ、貴重な尾の身をはじめとする刺身類やベーコンなどの馴染みのメニューは健在。
そのほか、ひと口大の鯨のステーキを乗せた「鯨カットステーキ丼」や鯨カツ丼、鯨竜田揚丼など600円からのお手頃価格のごはんものも充実していますので、軽いランチにはちょうどいい感じ。
近くのカレー専門店とのコラボで生まれたという鯨カツカレーカツも、ちょうど私が食べたときはまだ煮こみが足りなかったようで粉っぽかったのですが価格が700円と安く、気軽に食べられますのでお勧めです。
また、変わり種としては「くじらアイス」もぜひ。
アイスそのものは普通なのですが、トッピングで鯨の粉をかけてあり、「レバニン」という鯨特有の栄養素が疲労回復を助けるとか。
500円という値段は、鯨カツ丼とわずか100円しか差がないので考え込んでしまいそうですが、そこはスイーツは別腹。話のタネにもぜひチャレンジしてみてください。
数々の鯨料理をつまみに昼酒を楽しむもよし、
鯨竜田揚げや鯨カツに少年時代を懐かしむもよし。
築地場外のなかでも特別に時代に取り残されたかのような不思議な空間で、ゆったり時間を過ごすのもいい経験だと思います。
「登美粋」(築地場外・鯨料理)
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13132056/